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第165話

side 優一 あー、うっせぇ、うっせぇ、マジでうぜぇ…… 大学のレポートに教授からの命令。家業の手伝いと副業。 やる事が山積みで休む暇など1ミリもない優一は先程から『実家』と記された鳴り止まない己の携帯電話を壁に思い切り投げつけた。  ーピリリリリ、ピリリリリー 最近の携帯電話は強度を増したのか、相当な力で投げつけたにも関わらず、壊れることなく鳴り続ける。 「だぁぁあぁーーー!クソうるせぇわっ!!」 椅子から立ち上がり、地べたに落ちた携帯電話を取り上げると、優一はその電話へと出た。 「なんだよ!?この忙しい時に!電話なんてかけてくんなっ!!」 思い切り怒鳴り声を上げる優一に電話相手は息を呑む。そして、慌てたように声を出した。 『ゆ、優一さん、忙しいのにごめんなさい…』 「………」 声の主は優一の母親で、黙る息子に怯えながらも要件をしどろもどろ伝えてきた。 『実は九流家の三男、渉君の婚約発表の日取りが決まったらしくて、門倉家の代表としてお父様と一緒に出席して欲しいの……』 「はぁ〜!?渉の!?んなもん、咲也に行かせろ!そんな暇、俺にはねぇーんだよ!」 しょうもない電話してくるなと、怒鳴って電話を切った優一は作業を再開するべく椅子へと座り直した。 カタカタとキーボードを最速で打ち、分厚い資料ファイルをめくる手を途中で止める。 数秒、何かを考えたのち、携帯電話を手に取って『実家』へと電話をかけ直した。 数回のコール音の後、使用人が出て、母と代わるよう命令する。 数秒後に電話口に出た母親に優一は今度は落ち着いた声で会話をした。 「さっきは悪かった。聞き間違いじゃないのか確認させてくれ。渉ってあの猛のとこの弟だよな?あの昔からの婚約者との婚約発表なのか?」 『えぇ、そうよ!出席してくれるの!?』 期待に満ちた母親の声に優一は返事をせず、更に質問を重ねた。 「そのこと咲也って知ってるのか?」 『どうかしら?渉君と仲が良いし、知ってるんじゃないかしら?』 曖昧な返答に優一の眉間に皺が寄る。 「それ、参加するわ。咲也も連れてくから、また日時と場所、メールしといて」 早口で指示を出すと、優一は電話を切って、間髪入れず今度は咲也へと電話をした。 いつもなら必ず出る自分からの電話に咲也が出なくて、優一は鬱陶しそうに電話を切る。 腕を組んで数秒間、何かを考えると、椅子から立ち上がり、優一は立春高校へと足を向けた。 side 優一 おわり

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