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第167話
「なんだか綾ちゃん、冷静だね」
「ゆーいちの方がもっと冷静じゃん」
他に用事があるくせに、あたかも自分の為に来たと言わんばかりの言動に綾人は恨めしく思った。
優一は自身の口を覆う華奢な手を外すと、綾人の唇へ優しいキスを落とした。
「ちょっと見ない間に大人になった?」
茶化すような口振りで、クスクス笑いながら細い首筋へ唇を移動させると、綾人はくすぐったさに身を竦める。
「確かに他に用事もあったけど、綾に会いたかったのは本当だよ?」
信じてと、熱い吐息で囁かれて綾人は気恥ずかしさで視線を落とした。
そんな天使が愛おしいと、門倉の瞳が更に優しくなる。
「今度の週末はマンションへおいで。時間を作るから」
握りしめていた手へ恭しくキスをしながら言うと、綾人は即答した。
「いや、無理でしょ!」
「へ?」
「だって優一、教授からのお仕事も家のお仕事もまだ終わってないし、今週中に終わらない内容量でしょ?それに最近寝てないようだし」
優一の頬へ手を伸ばし、少し肌荒れしていると心配そうに眉を垂らす綾人に驚いた。
「どうせ今日来たのも咲也君が心配だからでしょ?なんか、渉君の様子おかしかったし」
そこまで分かっていたのかと更に驚いた優一はポカンっと空いた口が塞がらなかった。
「ゆーいちは分かってないかもしれないけど、咲也君のこと、相当可愛がってるもん。熱烈な表情をする咲也君とは種類が違うだけでゆーいちも十分、ブラコンだよ」
そうでしょ?っと笑顔で小首を傾げる天使に優一は苦笑いしながら白旗を上げた。
「……お見逸れしました」
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