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第169話
自分の悩みの種を的確に言い当てる兄に、この人には知らないことはないのかと、咲也は目を見開き、あんぐりと口を開けた。
婚約発表の件は近々の情報で、自分も渉から数時間前に聞いたばかりなのだ。
「………兄様の情報網、正直引くんですけど」
「だから、兄様を侮るなと言ってるだろ」
ワハハと胸を張って威張る優一に綾人は何のことやらと首を傾げる。
「で?それでどうなんだよ」
己の意図を話せとつつく兄に咲也は少し悩んで、恐る恐る口を開いた。
「どうしたらいいと思いますか?」
「どうしたらってお前が尻拭いするのか?」
腕を組み、長い足を組んで核を聞き出そうとする優一に咲也はまた、もごもごと口を閉ざした。
「……まぁ、いい。質問を変える。お前はどうする気なんだ?因みに俺は渉と別れればいいと思ってる」
「それは……っ…」
渉との交際に否定的な言葉に言い返そうと口を開くも、正直自分も兄と同意見を持っていて、咲也は悔しそうに唇を噛み締めた。
咲也の煮え切らない態度に埒が開かないと、優一は口調を強める。
「自分の意見も満足に言えねーのか?お前もあいつも腑抜けた野郎だな。そんなみっともねぇー付き合いならさっさと終われ!」
「それが出来ないから苦しんでるんです」
「何が出来ないんだ?渉が長谷川の令嬢と婚約破棄すりゃ、終わる話だろうが!」
「それが出来ないんです!」
「じゃあ、諦めて別れろ」
バッサリ切り捨て、問題解決!と、ソファから立ち上がる兄に咲也は狼狽えた。
「じゃ、俺、帰るわ。綾ちゃん、見送って」
淡々と身支度を整え、帰ろうとする優一に咲也は泣き叫ぶように敬愛する兄へ怒鳴った。
「兄様のばかぁぁぁーーーー!俺は男で、こんないっぱい問題あるし、九流家にも認められてないっ!!渉の事も麗美みたいにきっと受け止められないし、俺は、俺は……っ…、ぅわぁあーーーーーんっ!!!」
何が何だか上手く言えなくて、咲也はギャンギャン泣きながら、震える手で兄の服の裾を握りしめた。
「に、にぃさまぁあぁ〜……、にぃ様ならどうするの?どうしたら、俺、渉の側にいれるの?教えてくださぃ………」
自分と同じ紅茶色の瞳から沢山の涙が溢れ流れ、優一は見てられないと、大きな溜息を吐いて、咲也から眼鏡を取りあげた。
ぼろぼろと流れる涙を止めろと、テーブルに置いてあるティッシュを渡して、弟の頭を撫でてやる。
「最初からそう言え、馬鹿。つーか、そういうことは俺じゃなくて、渉に言え、阿呆」
呆れた奴だとなじる優一に咲也は受け取ったティッシュで顔をがむしゃらに拭いた。
「……俺なら」
めそめそまだ泣き続ける咲也に優一は静かに告げる。
「俺なら諦めない。渉と婚約者を傷つけても自分の望みを全力で叶える」
それが門倉優一だと不敵に笑う兄に咲也は目を瞬かせたあと、ブハッと吹き出して大笑いすると、兄をなじった。
「さすが、無敵の兄様です……」
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