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第172話
「ご、ご、ごめんっ!咲也!!本当にごめんっ!ごめんなさいっ!!」
頬を叩かれ、呆然とする咲也に渉はすぐ様正座をして、土下座した。
無我夢中に謝り倒す渉を前に咲也は放心状態だ。
小さい頃からずっと一緒だったが、正直なところ、渉に殴られたことが初めてで咲也はこの現実を受け入れられなかった。
「あの……、咲也、くん?」
震える声でピクリとも動かない咲也の顔を渉は覗き込む。
黒い瞳に自分の姿が映った瞬間、咲也は我に返った。と、同時に握り締めた拳を渉の顔面へ思い切りぶちかました。
「こぉんの、腐れヘタレやろぉおぉがぁあぁーーーーっ!!」
怒声と共に渾身の一撃をかました咲也はそのまま怒って部屋を飛び出した。
痛みに一瞬、気を失った渉だったが、すぐに意識を取り戻し、殴られた顔を撫でた。
「いってぇ〜……、流石、門倉家仕込み。マジで痛い…」
ひ〜んっと泣きながら、渉はこれは青タンになるなと、ぼんやり考えた。
「はぁ……、なんか疲れたな」
考えても考えても、結果は誰かが泣く羽目になる結論しかでない。
平和的に皆が幸せになる方法がどうしても見つからなくて、渉は辟易した。
自分勝手な都合で麗美と婚約をし、相手の好意に甘えるだけ甘えたあと、スッパリ切り捨てる行為が渉にはどうしても出来ない。
「これがゆう兄なら迷わず切るんだろうな……」
自分大好き王様である優一を思い出し、渉はある種、羨ましいと妬んだ。
咲也にはあんなことを言ったが、渉は優一を尊敬している。
おそらく、自分の兄よりも……
憧れているのは猛ではなく優一にだ。
あの行動力と実力
賢さとズルさ
潔さと冷徹さ
そして何よりも、それらを統一させる精神力
何をやらせても成功する器用さには心から感服する。
咲也が惚れるのも無理はない。自分だって惚れ込んだ人だから……
優一といると自分が物凄くちっぽけな人間に見えるのだ。
構ってもらえたら嬉しいのに、それを素直に最近では表現できない。頼られると期待に応えたくて必死になるが、レベルの高い優一を満足させる結果まで持っていけず、毎度反省するハメとなり自己嫌悪に陥っていた。
「ゆう兄……、あんたホントに人間かよ〜」
流石、大魔王と名の付く王様だと渉はベッドへ降参を意にしてダイブした。
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