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第173話

「白木ぃーーーー!」 「あ!咲也君、おはよ〜」 ドドドドドッと、けたたましい足音で走り寄ってくる咲也に綾人は笑顔で手を振る。それを側にいたざくろが轢かれると、綾人を避難させるように抱き寄せた。 ピタッと綾人の前に止まる咲也にざくろが注意をした。 「咲也君、危ないっ!綾に当たったら吹っ飛んじゃうからっ!!」 「俺がそんなミスするわけないだろ」 「うんうん!で?こんな元気いっぱいどうしたのー?」 「………う、ん…」 歯切れの悪い咲也の様子に綾人が顔を覗き込んだ。 渉の贄切らない態度と八つ当たりに怒って出てきたが、怒りに任せて綾人に愚痴ればまた渉の機嫌を損ねるのではと踏み止まる。 「どーしたの?」 「いや、やっぱいい。じゃあな」 渉にもプライドはある。 いつも兄達の影に隠れて、あの性格だから分かりづらいだけで、決してプライドが低い男ではないのだ。 「……俺も悪かったしな」 能力が低いなどと、渉の自尊心を傷つけることを言ったと、咲也は反省した。 あてもなく途方に暮れるように歩いて、着いた先は屋上だった。 「ここでよく泣いたっけ……」 ガランとした屋上は人が全くこない。兄のことがまだ好きだったとき、綾人といちゃつく姿にショックでここへ来ては泣いていたことを思い出した。 だけど、必ず自分の後を追って慰めてくれる渉がいて…… 「……もう、追いかけてもくれないじゃん」 声に出した現実に咲也は勝手に涙が流れた。 渉が優しいのはいつものこと 争いより平和を好んで尽力を注ぐ 分かっている 麗美を傷つけたくない気持ち だけど……、だけど、俺は? 俺だって…… 「最悪……、ウザっ」 自分でいっぱいになる咲也は自身の甘えに嫌気がさした。泣くなと自分を叱責し、涙を拭うものの孤独感と罪悪感、また、渉が離れていくのではと思う喪失感に溢れる涙を止められなかった。

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