175 / 222
第175話
「はぁぁぁぁーーーー。ぜっんぜん良いアイデア浮かばね〜」
誰もいない屋上で渉は地面に大の字に寝そべり、青い空を見上げた。
今日は金曜日。
明日は麗美とのデートだ。
咲也とも仲直りは出来てない。
「……最悪だな」
自分の置かれた状態が恐ろしいとボヤいた。
麗美のことを考えれば考えるほど、申し訳なさに胸が痛んだ。
咲也のことを考えると………、よく分からない。
とりあえず、今のこの状況を早く脱したくて渉は何一ついい考えなど、浮かぶ訳がない解決法を今日も頭に巡らせた。
「誰かが俺を諦めたらいいのに……」
青く深い空へポツリと溢した本音なのか空言なのか分からない言葉に涼やかな声が返答をした。
「俺が諦めてやるよ」
そのよく知る声に渉は嘘だろうと、体を起こして相手を確認する。
屋上の扉を開け放ち、優美に微笑んで立つ咲也に身体が固まった。
「もう悩まなくていい……。別れよう」
薄いフレームから覗く紅茶色の瞳が自分を射て、渉は一瞬呼吸を止める。
風が強く吹き、瞳と同じ色をしたサラサラの髪がなびいて、ただ綺麗だと思った。
「さ………、くや…」
何を言われたのか理解できないと、名前を呼ぶ渉に咲也は踵を返した。そして、思い立ったように上半身だけ振り返ると、幼馴染みへあっかんべーと舌を出して笑った。
「バーカ」
そのままカンカンっと階段を降りる足音を鳴らし、今度は振り返ることなく、咲也は去っていった。
その一連が動画か何かのスローモーションで見えた渉は指ひとつ動かせないまま咲也の後ろ姿を見送った。
ともだちにシェアしよう!