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第182話
一気に攻め落とすと宣言された咲也はまだ火照る顔を覚ますことが出来ぬまま寮へと戻ってきた。
今まで沢山の人間から告白をされてきたが、あんな風に強引な人はそうそういないと咲也は怒りに似た感情でぶんぶん顔を横に振り、気を紛らわせる。
「咲也!」
「咲也君!」
自分の部屋へ入ろうとしたとき、二つの声に呼び止められ、咲也は振り返った。
そこには渉と綾人がいて、咲也は怒りに綾人目掛けて競歩にて距離を詰める。
「お〜ま〜え〜なぁ〜〜!!!」
「うわ〜ん!ごめん、ごめん、ごめんなさーーーいぃーーー!!!」
胸ぐらを掴んで睨みつけると、綾人が泣きながら謝る。
「僕も行くつもりだったんだよ〜!でもでもでも、ゆーいちが卑怯で〜」
兄の罠に引っかかって足止めを食らったことを嘆く綾人に渉が止めに入った。
「っていうか、どうして俺に連絡しなかったんだ?手伝ったのに!」
咲也から連絡が来なかったことに渉が聞くと、咲也は呆れたように言った。
「いやいや、お前、今日麗美とデートだったろ?」
「え!?」
「来月、婚約発表なんだしそっちに力注げよ。あ〜、疲れた〜」
もう寝たいと、脱力する咲也は二人に背を向けて部屋へ戻ろうとした。
「待って!ご飯まだでしょ?これ!」
綾人が差し入れだと袋を差し出す。
中身を見ると、サンドイッチが入っていて、咲也はそれを有り難く頂戴した。
疲れもだが空腹感も半端なかった為、元凶の綾人にすら感謝する始末だった。
「じゃあな!」
扉を閉めようとしたとき、今度は渉がその扉を押し開き咲也を止めた。
「今度は何?」
疲れから苛立つように聞いてくる咲也に渉はしどろもどろと言葉を並べる。
「いや、凄く疲れてるっぽいから心配で……、その、お茶でもいれようか?それともマッサージする?あと、あと……」
「なんか、話あんの?」
「え……、いや…」
口籠もりながら俯く渉に咲也は面倒くさそうに息を吐いて、扉を開いてやった。
「俺がご飯食べ終わったら帰れよ」
それまでは滞在することを許可してもらって、渉はこくこく頷くと、部屋の中へと入っていった。
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