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第184話

半泣き状態で咲也は服を着たまま風呂場へ飛び込み、直ぐに体を洗おうと、服のままシャワーを浴びた。 濡れて肌へ張り付く服が更に気持ち悪く感じ、急いで脱ぎ捨てる。 裸になると、ボディーソープを大量に顔から身体へと擦り付け、ゴシゴシ磨いていった。最後に泡を綺麗に流すと、次はボディーソープを泡立てて、もう一度全身隈なく磨き上げた。 もう一度、シャワーにて泡を流し切ると、ここでやっと一息つけた。 ふーっと、満足して息を吐くと、咲也は目の前の鏡を見つめた。 そこで初めて自分の首筋に赤いアザがあることを確認する。 「……二宮のやつ」 渉が言ってたのはこの事かと、咲也は目を細めて自分の首筋を撫でた。 「余計なもん付けやがって」 悪態ついて溜息を吐くと、咲也は風呂場を出た。 脱衣所でふかふかのバスタオルで綺麗に体を拭き、真っ白のパジャマに袖を通す。 無臭でシワひとつないパジャマを着るときが一番幸せを感じる瞬間だった。 「あー、スッキリした〜」 上機嫌で部屋へ戻ると、もう帰ったとばかり思っていた渉がソファに座って自分を待っていたことに、咲也は驚いた。 「まだいたのか?」 首にかけたタオルでゴシゴシ髪を拭きながら聞いてくる咲也に渉は難しい顔で聞いてきた。 「それ、誰が付けたんだ?」 「あー、これ?二宮先輩」 大したことないといった顔で言って退ける咲也に渉がカッとなる。 「なんで、二宮先輩と会ってるんだよ!資料作成してたんじゃないのか!!?」 怒鳴り声に近い声音で問いただされ、咲也は複雑な心境に陥った。 純粋に自分を心配してなのか、数回抱いたこの身体への独占欲なのか分からないが、どう反応をするのが正解なのか分からない。 「資料作成、二宮先輩が一緒に手伝ってくれたんだよ」 素っ気なく答えると、渉は嫌そうに顔を顰めた。 「咲也に好意持ってるのに二人きりになったのか?そんな痕、付けさせるのに同意したのかよっ!?」 怒りを押し殺すように今度は静かに問われ、咲也は項垂れるように溜息を吐いた。 「もうやめろよ……。どうでもいいじゃん。つーか、お前とはこんな話、したくない……」 二宮のことは何とも思っていないし、二宮自身もちょっとしたイタズラだったと思っている咲也は大事にしたくなかった。 兄の友人でもある彼とはまた会うこともあるだろう。ならば、尚更、波風立てたくない。 「話したくないってなんだよそれ……」 「別に大したことないって。もう俺のことはほっとけ」 気にかけられても困ると、咲也はパタパタ手を振ってこの話を拒否した。 「ほっとけって、放っておけるわけないだろ!!」 大きな声で言い返してくる渉に咲也は力無く笑った。 「あのさ〜、今のお前は俺じゃなくて麗美の事だけ考えてやれよ」 その言葉に渉はショックを受けつつも、何も言えなくて押し黙った。 「……今日は疲れてるんだ。もう帰って」 静かになった渉へ冷たく言うと、渉は不機嫌な顔で部屋を出て行った。 完全に渉が帰ったのを確認し、咲也は盛大に溜息を吐いた。 「あ〜〜〜、頑張れ、俺」 渉の揺れ動く気持ちに左右されるなと、自分に言い聞かせる。 ここで渉が見せる淡い好意に縋り付いたら、今度はもうやり直せないと咲也は自分を叱咤した。 幼馴染みに戻るんだ 昔のように…… もう何も考えず眠りたいと、ベッドへダイブする咲也は無臭のシーツの香りを堪能した。 一日の終わりの安息の時間帯で、一気に睡魔が襲ってきて、咲也は全身の力を抜く。 今を乗り越えれば、必ず昔の二人に戻れる 毎夜、呪文のように唱える望みを心の中で反復すると、咲也はその日が来ることを切に願いかながら眠りについた。

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