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第189話

「あの人……、またこんな目立つとこに…」 まだ帰りたくないだの、泊まるだのと喚く二宮を何とか追い出した咲也は風呂に入って、首筋に付いたキスマークをうんざりする気持ちで眺めていた。 左首筋だけでも目立っていたのに、右首筋はシャツで隠すのは不可能なレベルの位置で、盛大な溜息が漏れる。 兄様の数少ない友人で自分が小学校の時から知っている分、二宮にさほど危機感を持たない咲也だったが、これは本気なのかもしれないと、青褪めた。 前にもセフレだの好きだの言ってたが、渉に夢中でうやむやに流してしまったが、今は自分でも自覚のある隙を感じている分、マズイとまた一つ溜息を吐いた。 あの時もだが、今回も流されてしまいそうな己の弱さに咲也は心から参った。 「俺……、結構軽いんだな」 言葉に出して、更にへこむ咲也は自己嫌悪に落ちる。 二宮のことは嫌いではない。 優一同様、大人で自分を受け入れる度量があるとも正直思ってもいる。 「二宮さんかぁ〜……」 渉との関係にキッパリ精算をするのなら、彼に乗れば楽だろうと咲也は考えた。 好きという感情が湧かないなら、セフレもアリかもしれない。 彼なら細かいことは言わなさそうだと咲也は少し冷静な自分に笑った。 「俺、何やってんだろ……」 ふらふらする浮き沈みの激しい感情がバカらしくなって、誰かにズタズタに引き裂いて欲しい。 だけど、それを渉にはされたくなくて…… 「未練がましいバカだな〜……」 未だに渉が好きなことを再確認して、咲也は泣きそうだと、鏡に映る自分から逃げるように頭からシャワーを浴びた。

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