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第190話

「………」 「………」 どうあがいても隠すことの出来ない場所に残されたキスマークにもちろん渉は気が付き、無言のプレッシャーに咲也は朝から気まずい思いに苛まれていた。 絆創膏で隠すべきかとも思ったが、それもあざとく感じて何の処置も施さなかったが、わざとらしかろうがあざとかろうが絆創膏を貼るべきだったと後悔に陥る。 「………今日、生徒会ないよな?」 「え?あ、うん」 隣の席に座る渉が不機嫌な声で聞いてきて、咲也は慌てて頷いた。 「じゃあ、ちょっと俺の部屋来て」 「え……っと、……」 突如、お部屋訪問のお誘いに咲也は固まったあと、意味深に視線を外した。 「何?なにか用事でもあるの?」 「……ちょっと、二宮さんと…」 早朝に二宮から今日も部屋へ来ると電話を受けた咲也は言葉を濁しながらその名を出す。 「もしかして、二宮先輩と付き合ってんの?」 「はぁ!?そんなわけないだろ!!」 全力で否定する咲也に渉はスッと差し出した手で咲也の右首筋を撫でた。 「付き合ってもないのに、昨日もこんな痕付けさせたんだ?」 怒りを含む声色に咲也は閉しかけた口を開いて文句を言う。 「お、お前にそんな事、言われる筋合いないだろ!俺のことはほっとけよ!」 「放っておけないから聞いてる」 すかさず言い返されて、咲也はたじろいだ。 渉との関係は終わっていて、何もやましい事なんてないのに、二宮とのことを責められているようで要らぬ罪悪感に押し潰されそうになった。 「……だ、大丈夫だよ。あの人、軽い感じだけど、兄様の友達だし。結構優しいし……、それに…」 「そんなこと、聞いてない!好きなのかって聞いてるんだ!!」 しどろもどろと二宮のことを口にすると、渉がいきなり怒鳴って、咲也の身体がビクッと飛んだ。 「お、大声だすなよっ!」 びっくりしたと、非難すると、渉は咲也との距離を詰めて、紅茶色の瞳を睨んだ。 「な……っ…」 怒ってるような悲しんでいるようなどちらとも取れる漆黒の瞳に咲也は混乱する。 「おはよーーー。今日も一日頑張るぞ〜」 その時、教室の扉が開く。担任の教師が大きな声で朝の挨拶をし、二人は正気に戻って距離を離した。 他の生徒達も自席に着席する。 そんな中、ドキドキする心臓の音に咲也は胸元を握りしめ、一層、心臓なんて止まってしまえと念じた。 一方、渉はそんな咲也から視線を外さず、何か言いた気にずっと見つめていた。

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