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第192話

「なんだよ。図星指されてキレてんの?」 「……ちょっと失礼じゃないですか?」 敵意丸出しで睨みつけ、凄んでくる渉に二宮は余裕風を吹かせてゆったり笑った。 「失礼なのはお前だろ?俺が咲也と二人きりになりたいの分かってて、邪魔してんだから」 「………」 「お前は婚約者のことだけ考えておけよ。婚約発表、来週だろ?」 その発表会に、二宮は家の代表者として参列することが決まっていた。全てを把握済みの二宮は渉に容赦なく畳み掛けるような言葉を放つ。 「あっちもこっちも手放せないなんて、生温いワガママほざいてんじゃねーぞ」 「ワガママなんて……」 「だったら、今後咲也にちょっかいかけんな。幼馴染みに戻れただけラッキーだと思って、婚約者を大事にしな」 「………」 もっともな正論に渉はぐうの音も出ず、視線を落としたとき、咲也が喚いた。 「喧嘩するなら帰って下さい!渉とはもうそんな関係じゃないし、変な勘違いも迷惑です!!」 「じゃあ、今ここで俺にキスして」 予想よしなかった提案に咲也は真顔になる。 対する二宮は笑ってはいたが、その目は真剣そのもので、渉は息を呑んだ。 「あ……あんた、ほんっとに頭、大丈夫ですか!?」 直ぐに我に戻った咲也が脱力したように茶化すと、二宮は咲也の頬を両手で包んで、俯いた顔を上げさせた。 「本気だよ。渉の前でこいつはもう関係ないって証明しろよ。それなら、今回は俺が引いてやる」 譲らないと強い気迫に押され、咲也は身を固めると、二宮の顔がゆっくり近付いてきてギュッとキツく目を閉じた。 吐息が触れて、覚悟を決めた瞬間、バキッと鈍い音がして咲也は瞳を開いた。 「いってぇ……」 どうやら渉に殴られたらしい二宮が左頬を押さえつけて倒れ込んでいた。 咲也は何が何だか分からないと渉を見上げると、漆黒の切実な瞳と目が合った。 「好きだ……。咲也が好きだ。誰にも取られたくないっ……」 辛そう告げられた渉の本音に咲也は目を見開いて驚く。 何も言えなくて固まる咲也の紅茶色の瞳に、情け無い自分の姿が映っていることに気が付いた渉は奥歯を噛み締めて部屋を飛び出していった。

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