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第193話

side 渉 うわぁああーーーー!!! 何やってんだ、俺!! 脱兎の如く廊下を走り抜け、自室へ飛び込むと、扉を背にズルズルと頭を抱えてしゃがみ込んだ。 せっかく、せっかく…… 「幼馴染みに戻れたのに……」 後悔の念が付き纏う渉は己の不甲斐なさに、あの抑えきれない衝動を恨んだ。 しかし、あそこで二宮と咲也のキスを止めていなければ、今よりももっと後悔したであろう事実に重い溜息を吐く。 好き そう、好きなんだ やっぱり……… 「俺、咲也のこと好きなんだ……」 蓋を閉めた感情が溢れて隠しきれない想いを再確認してしまった渉は自分が泣いていることに気がついた。 消せない想いを無理矢理押し込めて、裏切ってしまった咲也になんて許しを乞えばいいのか分からない。 同時にもう一人、頭に過った婚約者に申し訳ない罪悪感に駆られた。 もう隠せない 自分を騙すことができない 「………麗美、ごめん」 咲也を想う自分ではやっぱり麗美の事は幸せにできないと悟った渉はズボンのポケットに入れていた携帯電話を取り出した。 ちょうどその時、ヴゥー、ヴゥーと携帯電話のバイブが鳴る。 ディスプレイには麗美の名前が映し出され、渉は覚悟を決めてその電話へ出た。 『もしもし、渉?こんばんは!』 明るく名活な麗美の声に渉は涙で掠れる声で自分の想いを着飾ることなく、そのままを口にした。 「麗美、ごめん。俺、咲也が好きだ……」 『………』 電話の向こうで凍りつくような麗美の空気感を察知した渉だったが、そのまま言葉を続けた。 「諦めようとしたんだ。麗美を想おうとした。……だけど」 『言わないでっ!!』 突然大きな声で言葉を遮られ、渉は言葉を止めたが、それでも自分の気持ちを伝えなければと、口を開いた。が、麗美の悲痛の叫びにそれは叶わなかった。 『諦めようとしたなら、諦めてっ!私を想おうとしたなら、もっと努力してっ!!私は一生、待つから!!!』 「………麗美」 『貴方が咲也を想ってることなんて、出逢ったときから気付いてた!それだけ私は貴方を見てきたの!他所で女の子と遊んでも、咲也を好きでも、最後に私のところへ帰ってきてくれるなら、私はそれでいい!!最後に私を選んでくれるなら、私は全てを許すわ!だから、お願い………、私を受け入れる努力をやめないで……』 きっといつか告げられるであろう告白に麗美は準備していたかのように泣きじゃくりながら心の叫びを放った。 ために溜め込んだこの純粋で黒い感情に渉は今まで気付いてやることが出来なかった。 いや、それだけ渉は麗美に興味がなかったともいえた。 震える声が何度も何度も捨てないでと、縋り付き、渉は瞳を閉じて天を仰いだ。 side 渉 終わり

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