194 / 222

第194話

渉が去った後、色んな想いと考えに囚われて、咲也は固まっていた。 暫くの間、そんな咲也を見守っていたが、痺れを切らせた二宮が明るい声で咲也を呼ぶ。 「さ〜く〜や!」 「え!あ……、はい」 ここに自分が居たこと自体を忘れていたのか、慌てる咲也に二宮は苦笑が漏れる。 「三男のこと、諦めてみない?」 「……」 「あいつはどうせ、またフラフラしてお前を泣かせる」 「……」 「どうせまた裏切られるぞ」 「……」 軽い口調で辛辣な言葉を並べる二宮に咲也は全くもってその通りだと思った。 温厚な性格に平和主義者の渉はいつも臆病で険しい道は選ばない。 今回のことだってそうだ。 自分と麗美。 彼は安易な道を選んだ 本当は手を離したとき、追いかけてくれることを期待してなかったわけではない。 だけど、ほぼ100%の確率で麗美を取ると分かっていても、もしもの期待が自分の中になかったわけではなかった。 今更戻ってこられても正直困る 次はきっと、幼馴染みにすら戻れない自分がいるから…… 気を落とし、己の殻に入ろうとする咲也を二宮は柔らかく抱きしめた。 「俺にしとけ」 「………」 「お前から離れない限り、絶対離さないから」 それじゃ、嫌だ…… 「俺から離れても、離れちゃ嫌だ……」 二宮の逞しい胸元へ額を当てて、誰に向けた言葉か分からない想いを咲也は涙を流して囁いた。 誰も離れていかないで欲しい 自分の側にずっといて…… 「俺、そんなに強くないよ………」 いつも自分から切り捨てるようにみられるが、その実、いつも誰かの為に切り捨てさせられていた。 その度に涙を流して傷付いている自分をそろそろ気付いて欲しい。 「絶対、離さない」 力強い言葉と同時に俯く顔を上げられ、涙で歪む視界を紅茶色の瞳が二宮を映した。 ゆっくり、優しく丁寧に触れてくる唇に咲也は自分ではもう拭えない不安と寂しさで応えるように瞳を閉じ、その唇を受け入れた。

ともだちにシェアしよう!