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第195話

昨日の夜から止むことのない頭痛に咲也は悩まされながらも朝、いつも通りに登校した。 渉の顔を見るとその症状は悪化して、気分が悪くなった。 身体中に虫でも這っているような感覚に気持ち悪くて仕方がない。 潔癖症状が明らかに進んでいて、咲也は財布に入れている常備の薬を一つ飲む。その様子を見ていた渉が声をかけてきた。 「咲也、体調悪いのか?」 「あ……、うん…」 「大丈夫?」 視線も上げず、ぎこちない返事を返す咲也に渉は熱がないかと手を差し伸べた。だが、その手にゾッと悪寒を走らせた咲也が青い顔で払いのける。 「ご、めん。大丈夫だから……」 カタカタと震える咲也の肩を見て、渉は眉間に皺を寄せた。 「保健室へ行こう?」 「いや、大丈夫。……放っておいてくれ」 渉を払い除けた手を今すぐ洗いたい衝動に駆られた咲也は席を立つと、教室から走って出て行った。 トイレで何度も繰り返し石鹸で手を洗っていると、一限のチャイムが鳴り、咲也は焦ったが、どうしても教室へ戻る気になれなかった。 頭痛はどんどん酷くなって、頭が割れそうで辛い。 トイレから出た咲也は歩くのも辛く、息苦しさからネクタイを緩め、その場にしゃがみ込んだ。 誰かに助けて欲しくて、震える手で携帯電話を握りしめる。 脳裏に浮かんだのは渉と兄の優一。そして、二宮だった。 「はぁ……、しんどっ…」 汚くて嫌悪するのに、立ち上がる事ができず、地面へ座り込むと、咲也は二宮へ電話をかけた。 残念なことにその電話は出ては貰えず、咲也は目を閉じてどうしようかと瞳を閉じる。 そのとき…… 「咲也!」 良く知るその声に青白い顔を上げ、その名を呼んだ。 「…………渉」 「大丈夫か!?」 駆け寄って、地面へ膝をつき、手を差し出す渉に咲也は眩暈を起こして、壁へと背中を預けた。 「悪い……。お前に触れない」 正直に今の状態を告げる咲也に渉は潔癖症状の深刻さに息を呑んだ。 「手袋持ってくる。待ってろ!」 直に触れられない事にショックを受けたが、具合の悪そうな咲也をなんとかせねばと焦りが積る。 そのとき、咲也の携帯電話が鳴った。 震える手で握りしめた電話へ視線を向けると、二宮の名前が画面に映り、咲也はすぐに通話状態にした。 『咲也?どうした〜?』 呑気な二宮の声は静まったこの場で、渉の耳にも届いた。 「せんぱ……、助けて…」 助けを請う咲也に渉は衝撃を受ける。目の前の自分ではなく、まさか二宮を頼るなんてと、現実を受け入れられなかった。 『どうした!?具合が悪いのか?今、どこにいる?』 「……がっこ…、気持ち……わる、くて……」 声を出すのも辛いのか、咲也は苦しそうに呟いた。 『すぐ行く!待ってろ!!』 二宮の切羽詰まるような声を最後に電話は切られた。

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