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第197話

咲也の告白に室内はただならぬ重苦しい空気に包まれた。 怒りやら悲しみからの感情がダダ漏れの真横にいる渉。そして、その反対側横に嬉しそうに笑って咲也の手を握りしめる二宮に挟まれた優一はこの気まずさに汗をダラダラ流す。 「………まぁ、なんだ。その…」 口を開いたはいいが、下手なことが言えないと、言葉を濁す優一に二宮が声をかけてきた。 「優一!咲也のことは任せろ!!ちゃんと幸せにするから」 「え……、あ、う、うん……」 チラリと横の渉へ視線を向けて曖昧に頷く優一に咲也は不安そうに見上げてくる。 その視線に自分が戸惑う姿を見せてはいけないと、優一は咲也の頭を撫でた。 「ん。何かあれば言え。命令!」 優しい声で下された命令に咲也は小さく笑って頷いた。 少し空気が和らいだとき、渉が静かな声で呟くように聞いた。 「咲也……、俺は?好きって言ったよな?ちゃんと……」 考えて欲しいと、唇を震わせる渉に咲也は視線を落として、二宮の手を更にキツく握った。 「わ、渉の気持ちにはついていけない。明後日は麗美との婚約発表だろ?一体何がしたいのか分からない……。もうこのまま元の幼馴染みに戻った方が…」 「戻れんの?咲也は俺と本当に幼馴染みに戻れんのかよ!!」 怒鳴るように叫ぶ渉に咲也は顔を上げ、揺れる瞳で懇願するように囁いた。 「戻れるように努力する……」 だから、渉も努力して欲しいと訴えられ、漆黒の瞳からぼろぼろと涙が流れた。 「嫌だ……。嫌だ、嫌だ、嫌だっ!!」 子供のように駄々を捏ねる渉に優一が始まったと、渉の頭をポカリと殴った。 「イタッ!っていうか、ゆう兄〜、助けてよぉ〜!」 今でこそ弟が出来たら渉だが、長い間、九流家三男の末っ子として育てられた渉は末っ子根性が強い。 大抵のことは駄々を捏ねれば済んできた分、その気質が抜けきれず、こうなった渉はかなり厄介で優一はこめかみを指で押さえて溜息を吐いた。 「咲也!捨てないでっ!!麗美にはちゃんと話すから!もう一度……」 「無理!もう渉のこと、信じられない!!」 キッパリ咲也が拒否すると、渉はうわぁ〜んと泣き声を上げて優一の腰に抱きついた。 「キモい。俺に抱きついていいのは綾だけだから」 鬱陶しいと渉の頭を押して離れさせようとするが、渉はしがみつく力を増して優一に抱きついた。 「好きだ!好き!!よく分かんなかったけど、やっぱり咲也が好きって気付いた〜」 「俺に言うな。咲也はあっち!」 自分に言われても迷惑だと、優一が弟を指差す。だが、前が見えない渉はギャアギャア泣いて、咲也への告白をやめなかった。 「今度は絶対裏切らないっ!裏切ったら殺していいー!!お願いだから!一生のお願いだから、もう一回だけチャンスくれよ!!」 にっちもさっちもいかないこの状況に咲也が疲れたように息を吐き、それを察した優一が渉の首根っこを掴んだ。 「ちょっと、こっちこい」 このままでは咲也がYESと言わない限り、泣き喚きそうで、呆れた優一は渉を引き摺りながら保健室を出た。

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