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第198話

「お・ま・え・なぁ〜……」 いい加減にしろ!っと、ひと気のない中庭に連行された渉は優一にボコボコに殴られた。 殴られたおかげで冷静さを取り戻した渉は一気に静かになった。しゅんっと頭を垂らして地面に正座し、反省する。 「ごめんなさい……」 静かにはなったが、涙は未だに止まらないようでボタボタとめどなく流す水滴に優一はげんなりした。 「もう咲也のことは諦めろ。気付くのに遅かったお前が悪い」 咲也を想うなら引けと言う優一に渉が顔を上げて請うように見つめてくる。 「……もう神楽に任せとけ。あいつは意外と信用できるから」 「嫌だ!」 「なにが?」 「咲也が誰かのものになるなんて嫌だ!!」 「あのさ〜……、お前、一体何様?」 ベンチに座り、足と腕を組んで優一が本腰入れて会話する気になったのを見ると渉は食って掛かるように気持ちを吐いた。 「俺も咲也だけのものになる!約束する!!」 「それ以前の問題だ」 「え……?」 冷たい優一の声に渉は言われた意味が分からず黙った。 「お前、咲也のことなんだと思ってんの?あいつがお前を受け入れたのどれだけの覚悟がいったか分かってんのか?」 「………それは」 「大体、婚約者の件。咲也は最初どうした?最初からお前を切り捨てたか?」 あいつの性格からしてそんなことはあり得ないと断言するように言い放つ優一に渉はグッと拳を握り締めた。 「お前と乗り越えようとしなかったか?お前の助けをしようとしなかったか?」 「………」 「楽な方に逃げたお前をあいつは責めたか?」 今までのことを順立てて聞かれ、渉は自分のあまりに非道な行いに言葉を失った。 「お前が周りに気遣う性格なことは知ってる。もちろん、咲也もな。だからこそ、間違えるべきじゃなかったんだ。誰を優先させるべきか。自分がどうするべきか。自分の気持ちがどこを向いているのか。一番大切なものはなんなのか……」 余りにも多すぎる大きな過ちに渉はここで初めて気付かされた。 九流家の人間として 麗美の婚約者として そのことが先行した。 本当に優先すべきは自分の気持ちだった。 本当に大切にするべきものは咲也だった。 「どうせ誰かが傷付くなら、自分の軸が折れない選択をするべきだったんだ」 あやふやな態度を取り続けた代償は大きい。 そして、もうそれは引き返せないと教えられ、渉は静かに俯いて己の罪を悔いた。

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