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第201話

「麗美!頼むから話を聞いてくれ!!」 麗美専用の控室で渉は声を張り上げ、必死に婚約者へ懇願した。 「もう話は聞いたわ。咲也が好きなんでしょ。だから何だって言うの?今日は私達の婚約発表なの!ちゃんと集中してよ!」 「だから、この婚約を破棄してくれ!」 渉の気持ちを了承し、それを受け入れると麗美は決断した。 だから、別れないと……。 しかし、渉が求めるものはそれだけではなく、流石の麗美も怒りに震える。 「いい加減にして!!これはもう家同士の問題でもあるのよ!私は別にあなたが咲也を愛人にしても構わないって言ってるの!ここまで妥協してるの!!」 これ以上、恥をかかせないでと涙ぐむ麗美に渉は引け目を感じ、黙りそうになった。 だが、それじゃいつもと変わらないと意を決した渉が自分の想いをぶつけた。 「勝手を言ってるのは分かってる!だけど、このままじゃ咲也を幸せにできない」 「っ!!」 あまりにも酷な言葉に麗美はわなわな震えて唇を噛み締めた。 「麗美、本当にごめん。俺が悪いのは分かってる。でも、このままじゃ麗美も幸せになれない!」 ボロボロ涙を流す麗美に渉自身も心が押し潰れそうな思いで続けた。 「俺……、咲也から逃げたんだ。今までもきっと無意識にあいつを裏切ってたと思う。これ以上、好きな奴を裏切れない。裏切りたくないんだ」 「じゃあ……、私はいいの?私のことは何度裏切ってもいいって言うの!?」 渉の婚約者として、今まで数え切れないほど裏切られてきた麗美が悲痛の叫びを上げた。 その声に罪悪感を積らせる渉は心から申し訳ないと謝罪した。 「ごめん……。だけど、このまま婚約しても、結婚しても俺は麗美のこと一生裏切っていくんだと思う。もう、そんなことしたくない。だから、別れよう……」 頭を下げて二人の関係に終止符を打とうとする渉に麗美は顔を覆って叫んだ。 「出てって!最低!!もうあんたなんて要らないわよっ!!勝手にしてっ!!」 麗美からの初めての罵倒に渉は心底傷付けたことを自覚し、小さな声でありがとうとごめんを呟いて、静かに部屋を出て行った。

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