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第203話
「………」
「咲也?」
「………」
「いや、なんか言って?」
信じられないものを見るように自分を見て固まる咲也に渉が人差し指で咲也の頬をつんつん突く。
「あっ!アホかぁあぁぁーーーーー!!!」
我を取り戻した咲也は絶叫の如き、叫ぶと渉の胸ぐらを掴んで思い切り揺する。
「何してんだ、お前!?馬鹿だろっ!!早く麗美のとこ言って謝ってこいっ!!」
理恵と全く同じことを言う咲也に渉は苦笑した。
「いやいや、ここでマジで婚約発表した方が俺、馬鹿だろ?」
「………っ」
するりと頬を撫でて告げてくる渉に咲也は色々な葛藤から奥歯を噛み締めた。
「咲也、す……っむぐっ!」
好きだと言おうとした瞬間それを察っした咲也は己の掌で渉の口を抑えた。
「……困る。迷惑だ」
泣き出しそうな顔で渉の告白を遮ると、咲也は瞳を伏せて続けた。
「俺、お前とは幼馴染みがいい……。二宮先輩がいい……」
咲也の消え入りそうな声で呟く返答を聞くと、渉はそっと塞がれた手を取り払った。
「それでもいい。今は二宮がいいならそれでいい。だけど……、絶対譲らない」
伏せる紅茶色の瞳を覗き込み、自分の意思を伝える渉に咲也は辛そうにギュッと瞳を閉じた。
「………なに?あんたらデキてたの?」
ある意味、修羅場とも言えるこの現場を真隣で見せつけられていた理恵が2人を指差して素っ頓狂な声で聞いた。
「見て分かんない?俺、咲也に振られてんの。違う男に取られてて、取り戻すの必死なんだよ。だから、麗美とは結婚できない」
振られた自分、脱略しようとしている自分、そして今後の予定を明確に母へ説明する渉は申し訳ないと理恵へ頭を下げた。
「母さん、ほんっとごめんっ!!今後は絶対ワガママ言わないから、麗美との結婚は無しにして!」
息子のつむじを見つめながら、理恵は何かを考えるように黙り込んだ。
少し時間が空いて、理恵は大きく息を吐き出すと静かに口を開いた。
「……とりあえず、私の一存では何とも言えないわ。顔を上げなさい。来賓の前よ」
初めて聞く母の冷たい声に全身を強張らせ、渉はゆっくり頭を上げる。
「九流家の控室へきなさい」
一言短い命令を下すと、理恵は咲也へも目を配らせてから夫である貴一の元へと足を向けた。
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