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第204話
「さてっと……、理恵から穏やかじゃない話を聞いたんだが?」
いつも温和に微笑む九流家当主であり、渉の父親の貴一が厳しい面持ちで渉と咲也の前の席へと着座した。
次いで、理恵も貴一の隣へ腰を下ろすと無表情で二人と向き合う。
「………あの……、俺と渉の関係は終わってます。なので、麗美との結婚には賛成してます」
嫌な沈黙を打破するように咲也が小さく挙手して二人へ告げた。
その言葉に渉は嫌そうに口を挟む。
「まだ終わってないし。つーか、咲也は俺から逃げてるだけじゃんか!」
「別に逃げてない。それに先に逃げたのは渉だろ」
「うっ……。だから、今度は逃げないっ!」
「もう遅い」
心臓はせわしなく動くなか、咲也は冷静に勤めながら渉を突き放した。
「……それでも俺は咲也を追う」
ポツリと悲しげに述べる渉に咲也は後ろ髪を引かれる思いをしたが、それではダメだと自分を律して更に渉を追い込んだ。
「お前が今後どれだけ俺を追いかけても俺はもう振り向かない。お前とはただの幼馴染みに戻ったんだ。バカ言ってないで麗美とやり直せ」
そこまで言われて渉はしゅんと小さくなって口を閉ざした。
黙って見ていた貴一は妻へ目配りすると、理恵は肩を竦めて首を横へ振った。
「渉、別に望まない結婚なら無理強いするつもりはない。だが、そんな様子微塵も見せてこなかったじゃないか。それもこんな時に言い出して非常識とは思わないか?」
仰る通りの父の説教に渉は頭が上がらず、下を向いたまま固まった。
「麗美ちゃんが嫌なわけじゃないんだな?」
「………うん」
「なら、ケジメとして結婚しなさい。これはもう家同士の問題になってるんだ」
父の下した結論に渉は弾かれたように顔を上げた。
「でも、俺が好きなのは……」
「そんなのどうでもいい。咲也がお前に振り向かないなら尚のこと、そんなことどうだって構わない」
咲也との未来のない関係性なら、ある意味安心だと貴一は言う。
「俺は麗美を絶対幸せには出来ないのに?」
そんなの安心じゃないと、渉が言い返すと理恵が額を押さえて唸るように口を開いた。
「あんたね〜…、あんな良い子ほんっと、いないわよ?あんたを心底愛してくれてるのよ?」
「知ってる。だから無理なんだ。だから俺には幸せにできないんだ」
このまま結婚しても自分は彼女以上、いや、彼女同等のように愛は注いでやれない。その答えが出ている。
このまま咲也を追い続けて麗美を不幸にしてしまう。
そんな未来しかないと渉は両親へ正直に胸の内を告げた。
その心情に流石の貴一もまた困り果てたように顔を俯かせた。
愛する者から愛を与えてもらえない苦しみは人を苦しめ、闇を生む。
それは経験しなくても容易に想像出来て、あまりに不憫な麗美を思うと段々、この結婚が賛成出来ずになってきた。
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