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第205話
「本当にごめんなさい。麗美にはちゃんと話はしたから、この結婚は白紙に戻して欲しい…」
机に頭を擦り付けて頼んでくる渉に両親は顔を見合わせて苦心に顔を歪める。
「……渉、良くないよ」
ずっと黙っていた咲也がポツリと呟いた。
渉は顔を上げてゆっくり咲也を見た。
「渉は九流家だろ。それは長男とか三男とか関係ない。俺も門倉家としての役目はある。それを軽んじるのは良くない。もう後戻りできないところまで来てるんだ。お前が選んだことなんだ」
視線を伏せたまま咲也は淡々と告げた。
その内容は真実でもあり本心でもある。
咲也にとって、まだ渉が好きだから辛く苦しいことでもあったが、本当にもう取り返しがつかない現状なのだと咲也は諭した。
「でも……っ…」
言われてることは理解できて、自分が原因なのも分かっている。
だけど、渉はどうしても今度こそは間違えたくないと咲也の手を握りしめた。
「……幼馴染みに戻ろう?」
力無く微笑んだ咲也は伏せていた視線を渉へ向け、優しく進む道へと導いた。
その顔に声に渉は呼吸を止めて目を見開く。
いつも微笑む咲也の顔に何度、見惚れてきただろう。
それはこの恋心に気がつくよりずっと前からで……
「ちが……う…、最初から幼馴染みなんて違う……」
息を吹き返すように渉は涙を流して、ずっと秘めてきた自分の心をさらけ出した。
「ずっと……、ずっと前から好きだったんだ。どんな子といても、咲也がずっと俺のどこかにいた。麗美を選んだのも咲也が勧めたから……。麗美なら咲也と仲良くしてくれるって思ったから……。咲也が他の誰かに言い寄られてたらずっと嫌で仕方なくって、邪魔してきた。ずっと……、ずっと………」
ずっと前から好きだった
自分でも怖いぐらい無意識に
「俺は咲也のこと、ただの幼馴染みなんて思ってなかった……」
初めて知らされた渉の告白に咲也は驚いたように目を見開いた。
なんて言えばいいのか分からず、口を開いては閉し、言葉に困る。
「お願いだから……、もう一度だけ俺を好きになって…」
椅子から降りると、渉は両膝を床につけ、震える手で握った咲也の手を自分の額で祈るように更に強い力で握り直し、切に願った。
咲也を手に入れたとき、嘘のようでもあり、どこか当たり前のように感じていた自分がいた。
咲也を失ったとき、まだどうにか出来ると思う甘えた自分がいた。
だけど本当に失ったと気付いた瞬間、それら全てが傲慢だったこと。あり得ない奇跡だったことに気が付いた。
本当に大切なものを失って、初めて知った。
九流家の三男としてよりも、自分を心から愛してくれる婚約者よりも俺にとっては………
「咲也が一番大切なんだ……」
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