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第206話

side 咲也 どうして…… どうして今さらそんなこと言うんだ…… 自分が渉のことで翻弄していたとき、先に手を離したのはそっちのくせに 俺のこと、邪魔扱いして辛そうだったくせに だから、解放してやったんだ これ以上、好きな人が苦しむ姿を見たくなかったから あまりに身勝手な体当たりでぶつかってくる渉が咲也は憎かった。 好きで、好きで、大好きで…… ずっと側にいたかった。 だけど、手を離されてしがみついていた自分が忘れられない。 辛くて苦しくて、渉のせいにしてるけど、本当は……… 俺だってしんどかった。 だから、俺も渉から手を離した。 漆黒の瞳が真っ直ぐ自分を射抜く力強さに咲也は後ろめたさを感じた。 この手を取りたい気持ちと、手放すべきだという気持ち。 どちらをとっても怖い。 渉の手を取れば、また裏切られないか不安になる。 手を離せば、彼を見るたびに苦しみに襲われる。 「どっちも地獄じゃん……」 ハハッと渇いた笑みで呟くと、捨て犬のように見上げてくる渉の頬をするりと撫でてやった。 「お前、本当ズルいよな」 甘え上手というか、世渡り上手というか、最後の押しの手が粘り強くて根負けしてしまう。 自分も末っ子なはずなのに、この甘えたれの駄々の捏ねようには感服した。 「チャンスをやるよ。自分で親から了承してもらえ」 ここまで事を大きくした責任をとる九流家はとてつもない非難を浴び、損害が生じるであろう。 だが、九流家は愛に溢れた家庭だ。 息子が相手の女性を幸せに出来ないという事実がある以上、結婚は白紙に戻るであろう。 そこまで難しい条件ではないことから、自分もまだまだ甘いと咲也は失笑した。 side 咲也 終わり

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