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第207話
二人のやり取りを見た貴一はこめかみを抑えて重い溜息を吐いた。
理恵と共に黙って席を立つと、渉の意思を変えるのは無謀と分かってこのパーティーの収集へと乗り出す。
麗美の控室へ赴き、泣き続ける麗美と怒り狂う長谷川家両親が去る直前まで頭を下げ続けた。
次いで、集まってもらった来賓には息子の渉が体調を崩したといって婚約発表の時期を延ばすと述べ、食事のみを楽しんでもらう形にした。
ホテルに居られるとある意味迷惑だということで、渉は咲也と共に寮へと帰宅した。
タクシーに乗って帰る二人は言葉も視線も交わさなかったが、渉は咲也の手をずっとキツく握りしめていた。
「……あのさ、いつまで繋ぐ気?」
寮の自分の部屋まで付いてくる渉に咲也は扉の前で握られた手を見つめて溜息混じりに聞くと、渉は部屋へ入れてくれないのかと縋るように見つめた。
「……分かったよ」
仕方ないなと、扉を開けてやる。途端に渉はパァーと明るい顔をして部屋の中へと足を踏み入れた。
そのとき手を離すと、すかさず渉に抱きしめられて咲也は少し身を強張らせた。
「咲也、好き」
緊張に身体を竦める咲也へ告白すると同時に渉は咲也の首筋へ顔を埋めた。
「ちょ……」
距離を取ろうと身じろいだが、渉は離さないと腕に力を込めて華奢な身体をキツく抱きしめる。
「咲也……、ほんとにごめん。好きだ」
「もういいから、離せよ」
照れも入って強い口調で突っぱねる咲也に渉は顔を上げるとキスをせびった。
「こら!止めろ!」
そこまでは許さないと、顔を背けると顎を掴まれて奪うように渉は口付ける。
「んっ、ぅ…」
舌を侵入させてくる渉に咲也は渉の肩をドンドン殴って、顔を晒せようと躍起になる。渉の舌を押し返すように力を入れるが、それを巧みに絡ませて深く口内を貪られ、咲也は身体をビクビクと震えさせた。
「あっ…、はっぅ……んぅ…」
強い勢いに拒みきれずいると、今度は息が出来ないと、呼吸を求めるように唇を開いた。その隙をつくように渉は角度を変えて更に深く濃く咲也の口内を蹂躙していった。
「はぁぅ……っ、ちょっ…と、まて……ぁ、た……へないっ……」
上顎をくすぐるように何度も刺激され、腰が抜けて渉の背中へしがみつくように震える足で踏ん張る咲也はもうダメだと、カクッと膝を折った。
崩れ落ちる咲也の背中を抱きしめ、熱に浮かされた漆黒の瞳は眼鏡越しの紅茶色の瞳を見つめて懇願した。
「お願い……、抱かせて…」
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