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第46話

気を失うように眠りについた咲也を渉は情事後、重い溜息を吐いて見下ろした。 最後の最後まで優一を想って抱かれ続けた咲也はとてつもなく健気でそれを思うと罪悪感に苛まれる。 だが、自分の怒りもまだ完全に冷めているわけではなくて気持ちの整理を付けようと風呂場へと向かいシャワーを浴びにいった。 渉の去っていく足音に意識が戻った咲也は自分の両目を塞ぐネクタイを取った。 自身を見下ろすと裸なことと、全身重だるいことから抱かれた事を思い出す。 ただ、今回は兄ではなく渉に抱かれたのだと頭の隅で混乱が生じた。 初めて抱かれた時は最初から最後まで兄の優一を思い浮かべた。 でも、今回は渉から入って兄へと無理矢理思考を切り替えさせられたのだ。 何故、抱かれたのか分からない。 分からないが、あの温厚な幼馴染みが怒っている事は分かっている。 シャワーが流れる音が聞こえてきて、咲也は床へと散らばる自分の衣服を拾い上げていくと早々に着込んで部屋を出ていった。 腰が痛くて仕方がなかったが、渉と顔を合わせるのが気まずくてそんなことに気などかけていられなかった。 そして、もう一つ。 現実は違えど、やはり自分は兄に抱かれたのだと思い込みたかったのだ… シャワーを浴び、咲也との対面を憂鬱に感じながら渉は部屋へと戻ってくる。 「……咲也?」 いるはずの咲也がいなくて、渉は目を丸くさせ呆気に取られた。 だが、次に襲ってきたものは安心感で体の力がドッと一気に抜け落ちた。 咲也にどのツラ下げて会えばいいのか分からなかった。 何と声をかければいいのかも分からない。 咲也が怒っているのかも分からない。 何故、このような行動に出てしまったのかも分からなかった。 グルグルと纏まらない考えに再び後悔の念が押し寄せてきて、渉は深い溜息と共にベッドの上へと倒れ込んだ。 「……俺って、咲也とどうなりたいんだろ」 ポツリと呟かれた自分への問いに、回らない頭で考える内に渉は下がってくる瞼に抗えず、眠りについた。

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