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第49話
「っで?何?」
優一は自分の寮の部屋に渉を招くと、面倒臭さそうにソファへ腰掛けネクタイを緩めながら聞いてきた。
お茶一つ出す気のない様子に渉は本当に30分で切り上げられそうな不安から早々に優一と向かい合わせのソファへ腰を掛け、本題を切り出した。
「ゆう兄ってさ、門倉家出るの?」
前置きもなく、踏み込んだ質問をぶつけてきた弟分に優一の冷ややかな瞳が向けられる。
「……その件について、咲也が荒れてるんだ」
付け足すように理由を話すと、優一は紅茶色の瞳を閉じて参ったなと、吐息を漏らしながら額を右掌で覆った。
相変わらず、絵になる優美な容姿に渉の目が釘付けとなる。
咲也と似ている分、妙にドキドキして体温が上昇するのを感じた。
兄弟揃って天性の色香に惑わされそうだと渉は視線を伏せた。
長いような短い沈黙の後、優一は長く息を吐き出して項垂れるように弱音を口にした。
「俺ももう、わっかんねーんだよな!綾にはプロポーズ躱されるし、親は大激怒で難題ぶつけてくるし、爺様に至っては綾を査定しようと企んでるし。本当、思い通りにいかね〜……」
優一から初めて漏らされた愚痴に渉は目を丸くした。
いつも余裕で自信満々の優一のこんな姿を見るのは生まれてからの付き合いだが初めてだった。
「ゆう兄でも思い通りにいかないことあるんだね」
「当たり前だろうが!思い通りにする為にいつもアレコレと努力してんだよ!ばーか」
呆れた口調で諭され、この男の人間味溢れる一面に頬が緩んだ。
「いや〜……!ゆう兄が人間でマジ良かったわ!たまに本気で悪魔と契約でもしたバケモンだと思ってたから!」
「……」
心底ホッとしたように笑う渉に優一はハンッと鼻であしらうと本題に戻った。
「っで?俺が綾と結婚して門倉家出るって咲也が荒れてて、それとお前らの喧嘩とどう繋がってるわけ?」
優一の質問に答え難い事項もあって言葉に悩んだが、どうしても耳に入れておきたい事を選び抜いて渉は告げた。
「俺はゆう兄が綾ちゃんと結婚しても反対じゃないよ。綾ちゃん、凄くいい子だし。なんせ、ゆう兄が本気になるなんて後にも先にもまずないだろうから。ただ、咲也の気持ちも汲んでやって欲しい。綾ちゃんへの当たりもキツイって分かってるでしょ?」
伺うように聞くと優一は腕を組み、天を仰いで唸り声をあげた。
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