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第213話
セフレ………
咲也にまさかの台詞を叩きつけられ、ガーーーンッと脳内で落ち込む渉は固まった。
あんだけ派手に婚約破棄して、告白して、ドロドロになるまで愛して、そんで貰えた言葉が……
セフレ
咲也には決して悟られないよう0.5秒キッチリ、キッカリ、ショックを受けた渉はそっと華奢な手を離して俯いた。
落ち着け、俺
泣くな、俺
泣いても咲也は攻略できないと熟知する渉は自身を律して、心を落ち着ける努力をした。が……
「っていうか、俺、浮気した?二宮先輩になんて言おう……」
まさかの別の男の名前と心配を持ちかけられ、ここで先程の努力は皆無となり、渉のメンタルが崩れた。
「お前は鬼かっ!こんなに好きって言ってる男の前でよく他の男の名前出すなっ!!やっぱりあの、優兄の弟だよっ!!」
うわぁ〜んっと突っ伏して泣き崩れると、咲也は呆れたと肩を落として息を吐いた。
「ウザいから泣くなよ。ほら、お風呂沸かしてこい。俺、ちょっと考え事あるから」
しっしっと、犬でも追い払うように手を振られ、渉はしゅんっと小さくなりながら風呂へ湯を張りにベッドから立ち上がった。
落ち込む背中を見つめながら、咲也は複雑な想いに思案する。
渉のことは好きだ
だけど、この好きは本当に正しいのだろうか?
この恋は失うものがあまりにも多く、大きすぎる。
九流家はこの婚約破棄で相当骨を折るだろうし、その原因が俺ならば門倉家にも何かしらの不利益があるはずだ。
それに麗美……
自分達の幸せだけを手に入れて、周りは見捨てるなんて……
仮に許されたとしてもそれに見合う、対価を払えるほど自分と渉は何も持ってはいない。
度胸もなければ技量もない。
そんな子供である自分達がこれ以上、ワガママで騒ぎ立てていいものなのかと、咲也は考え更けた。
「う〜わぁ……。もしかして、俺のこと清算すること考えてる?」
難しい顔で集中する咲也に風呂へ湯を張りにいった渉が戻るや否や、嫌そうな声を上げた。
「言っとくけど、別れねーから」
「つーか、付き合ってないから」
「うっ……」
直ぐに関係性を訂正され、渉は言葉に詰まった。感情を映さない紅茶色の瞳を半泣き状態で見つめると、渉は苦し紛れに叫んだ。
「好きなことはやめねーからっ!咲也がどれだけ迷惑がっても嫌がっても諦めないからなっ!!」
「………」
ストーカーか。と、罵ってやりたがったが、本気で泣き出しそうでそれはそれで面倒だと踏んだ咲也は小さな溜息を吐くだけにして口を閉した。
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