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第214話

渉の婚約発表から丁度一週間が経ち、咲也は以前から約束していた二宮と一緒に、二宮行きつけのカフェでデートしていた。 個室なこともあって、ラクに過ごそうと言う二宮にもちろん素直に甘えることなど出来ない。 悩みに悩み抜いた末、咲也は申し訳なさそうに渉と浮気したことを正直に告げた。 長い沈黙が流れ、空気が重く、咲也は奥歯を噛み締める。 対する二宮は優雅にコーヒーを飲み終えると、テーブルの上へ空になったカップを置き、余裕の笑みを向けて聞いてきた。 「で?咲也はどうしたいの?」 静かに聞いてくる二宮に咲也は恐る恐る視線のみを上げて見つめた。 「俺と別れたいわけ?」 怒鳴ることも罵ることもせず、冷静に自分の意見を聞いてくれようとする二宮の対応に咲也は居た堪れなくて再び俯いた。 そんな咲也に二宮はソファの背もたれへ、もたれ掛かり、長い足を組むと嬉しそうに言葉を続けた。 「婚約発表のあと、二人で消えたからより戻したかな〜?って思いはしたけど、まだ俺のこと考えるだけの隙間は残ってるんだな」 ふふっと、可笑しそうに笑って優しい瞳を向けてくる二宮に咲也は何とも言えないと、更に顔を俯かせた。 「俺、別れる気ないよ」 ニッコリ笑って自分の意見を言う二宮に咲也は驚いて顔を上げた。 「言ったよな?お前から離れない限り、俺からは離れないって」 その言葉に咲也は胸が痛くて、目頭が熱くなった。 そのあと、自分は彼に懇願したのだ。 『自分が離れても、離れないで』と…… あの時の自分は渉に捨てられてこれ以上、誰かが離れることを受け入れるのが怖かった。 心が壊れておかしくなりそうなのを二宮が救ってくれたのだ。 恩を仇で返すような仕打ちに咲也はまた顔を俯かせた。 すると二宮はソファから立ち上がり、泣き出しそうな咲也の真隣に腰をかけ、小さく震える華奢な肩を抱き寄せた。 「お前のことだ。2度目はないだろ?許してやる」 二宮の温情が自分には勿体なさすぎて、情けなくて咲也は涙を流すと、大きな優しい掌に頭を撫でられて抱きしめられる。 「ゆっくりでいい。だから、お前は俺を選べ……。絶対離さないから」 強い言葉で二宮が伝えると、咲也は小さく頷いて二宮の服の裾をギュッと握り締めた。

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