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第51話

渉とギクシャクしてから数ヶ月。 外の景色もガラリと変わり、冬の香りが漂ってている。 制服も冬服へとなり、学校と寮の登下校が苦痛に感じるほど寒さが骨身に染みわたった。 そんなある日、綾人が遂に腹を括ったのか門倉家の長男、優一と結婚すると公言し始めたのだ。 優一は浮かれに浮かれ、今までより一層綾人を溺愛し始めた。 門倉家では嫡男の強行突破に右往左往している。しかし、両親は優一に出した難題をクリアされ文句は言えず、祖父は綾人を気に入ってしまうという事態に陥っていた。 兄を今度こそ本当に持っていかれるという押し寄せる焦りと不安に咲也の心が掻き乱される。 「な、何とかしないと……」 顔面蒼白にてあの手この手と考えを巡らせるが、到底兄を出し抜く可能性が浮上しないことから咲也は頭を抱え、最後の切り札に手を付ける決意を固めた。 だが……… 「どうして俺と契約が結べないわけ!?」 怒鳴り声を上げるかのように咲也は電話口の相手へ癇癪を起こした。 あのゲスの極みと名高い千堂へと覚悟を決め、『白木綾人を兄の優一から引き離して欲しい』と仕事の依頼をしたのだが、千堂は「無理だ」の一点張りで、咲也はパニックに陥った。 自分が持てる全てのものを差し出すとまで言ってるにも関わらず、千堂からは良い返事がもらえず、電話を切られる始末。 苛立ちが膨れ上がり、何がどうなっているのか分からなくて気が動転した。 親へも兄を説得するよう呼びかけたが、なんだかんだと、両親は優一が去る事を怯えて強く出られないようだ。 祖父に至っては綾人を見定め、優一に相応しいと決断を下して二人の仲を祝福してしまっていた。もう門倉家には頼れない現状に咲也は気が狂いそうだった。 「くそ……。誰が邪魔してるんだ」 口の中でボヤくと、怒りが頭の中を支配し後先考えない短絡的な咲也の未熟な一面が頭角を現した。 携帯電話と財布を手に取り、ポケットへそれらを入れると咲也は走り出すように千堂へ直談判しに寮をあとにした。

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