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第216話

寮前で揉めるな!と、咲也の一喝であの修羅場はひとまず治った。 二宮はバツが悪そうだったが、咲也がまた電話すると宥めると上機嫌で帰っていった。 そんな二人を見ていたら、上手くいっている恋人に横槍を入れる自分に渉は心が沈んだ。 自分の部屋へ帰る足取りが重くて、溜息を連発していると、咲也に背中をトントンと叩かれる。 「ちょっと、話できるか?」 「え……、あ、もちろん!」 このまま各々の部屋へ帰ると思っていたから、まさかの咲也からのお誘いに渉は気持ちが浮上した。 咲也の消毒薬がする部屋へ入ると、白いソファへと渉はウキウキ腰掛けた。 渉と向かい合うように咲也は座り、そして真面目な顔で渉を見て、静かに口を開いた。 「あのさ……、俺、二宮先輩とは別れない」 その言葉に渉の顔から笑みが消えた。 どうしてと、咲也を見たが真っ直ぐ自分を見てくる瞳に怖気付いて渉は視線を逸らした。 「………好きなのか?」 聞きたくないが、聞いておかなければならない問いを渉は震える声で聞く。 相変わらず情けないと思いながらも、自分を奮起させて咲也を見た。 今度は咲也が視線を伏せてしまい、まだ自分と二宮の間を揺れていることに渉は気付いた。 「俺、今度は絶対、絶対、咲也を離さない!本当に咲也を大事にする!約束する!!だから……」 俺を選んで…… と、懇願する瞳に紅茶色の瞳が泣き出しそうに見つめ返してきた。 その瞳で確信をついた渉は身体を起こし、咲也へ詰めより叫んだ。 「好きだ!咲也だって、俺のことー……」 「あの人のこと好きになりたいんだ!」 好きだろ!と、続けようとした渉の大きな声は咲也の放つ本心の声に掻き消された。 「………好きになりたいってなんだよそれ」 責めるように縋るように、なんでもいいから考えを変えて欲しくて渉は咲也の肩を掴む。 「頼むよ!俺が信用ないのは分かる!だから、なんでもする!!なんだってしてみせる!!」 「…………ごめん」 ふるふると首を左右へ振って謝る咲也の意志を覆せなくて、渉はそれでも嫌だと咲也の身体をキツく抱きしめた。

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