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第54話
渉に支えられ、何とか寮へ戻って来たものの咲也は怖くて兄の部屋を訪れずにいた。
ずっと隣にいてくれる渉にしがみつき、体を震わせて永遠涙を流し続ける。
切り捨てられる
完全に兄様の逆鱗に触れた
「……っうぅ、どうしよう…。兄様に嫌われた……。俺、俺……捨てられる…」
今までなんだかんだと兄はこんな自分に接してくれていた。
殴られたり蹴られたり邪険にされる事の方が多かったが、裏ではいつも寛大で自分を気にかけ、守ってくれていたことを知っている。
それこそが兄からの愛だと信じていたし、満たされている一つでもあった。
だが、今回は……
あの冷たい眼差し
あの場に来たのは自分を見切る最後の一線の見極めだったのだろう
俺が本当に兄様の敵になったと見極める……
「ごめんなさっ……。ゆるし…てっ…。兄様の言うことこれから何でも聞くから……。白木の奴隷にでも何でもなるから、離れていかないで……っ…」
渉の腕へ縋り付くように抱きついては、兄を想って懺悔する咲也は崩れ落ちそうで、渉はそんなか細い体を抱き上げるように立ち上がらせた。
「俺に謝っても仕方ないだろ?俺も付いて行ってやるから、ゆう兄の所へ行こう」
言い聞かせるように説得すると、咲也は泣きじゃくりながら小さく何度も頷いた。
寮へ戻るタクシーの中、咲也はずっと小声でごめんなさいと唱え続けていた。
震える肩を抱き寄せて黙って側に付き、優一の部屋までゆっくりと渉は誘導した。
「……ゆう兄」
ノックをしてそっと扉を押し開くと渉は咲也の背中を押しながら部屋へと入った。
ソファにて座り、何かの資料へ目を落としていた優一が顔を上げ、二人の姿を確認すると渉を見て言った。
「渉、悪い。咲也と二人で話させてくれないか?」
「……口出しは一切しない。約束するから居たらダメ?」
咲也の自分の服を握り締めてくる手の力を感じた渉が告げると、優一は弟へと視線を移す。
ビクリと体を跳ねさせて怯える弟を見て、優一は仕方ないかと息を吐き、顎で二人にソファへ座れと促した。
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