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第56話

「やだぁ……、兄様のとこにいる!兄様がいいっ!!」 渉は咲也を肩へと担ぎ、部屋を出て行こうとするが、咲也はそれを嫌がり必死に抵抗をみせた。 家具や扉に指を引っ掛けては優一の側に少しでもいようと懸命に抗う。 「お前はゆう兄にフラれたんだ!」 キツイ口調で咲也のそれらの抵抗を去なし、渉は優一の部屋を出て行った。 そのまま兄を呼んでは泣き叫ぶ咲也を抱え、渉は自分の部屋へと戻る。 部屋の鍵を閉め、ゆっくりとベッドの上へと咲也を横たえた。 優一の部屋を出る時よりは幾分静かになっていた咲也が渉の首へ腕を巻きつけ抱き付いてきた。 「ぅ…だ、抱いてぇ……、兄さまぁ…。俺の事、もう一回抱いてくださっ……」 すんすん鼻を鳴らし、腫れた瞼を閉じて懇願してくる咲也はカタカタ体が震えていた。 最後に抱いた無体な情事が影響しているのかもしれない。 「い、痛くていい…、兄様の好きにしてっ……」 渉の首筋へと唇を当て、誘うように腰を擦り寄せてくる咲也を思い切り乱暴にベッドへ押し付けると、驚いたような紅茶色の瞳と目が合った。 「ここにゆう兄はいない。お前の兄様はいない」 「……っぅ、わた…る。おねが……、兄様になって……」 辛そうに顔を顰めて涙を流す咲也に渉は首を横へと振った。 「嫌だね。……お前は今から俺に抱かれるんだ!もう、我慢しない!!」 怒鳴るように叫ぶ渉に今までにない恐怖を感じた咲也は体を硬直させた。 シュルリと音を立ててネクタイが外され、両手を縛られる。 「え……」 「逃げないように念のため。……あと、今まではゆう兄的な感じで抱いてきたけど、今日からは俺仕様でめちゃくちゃに抱くから」 泣いても叫んでも許さないと、黒い瞳をギラつかせる幼馴染みに咲也は怖くてベッドを蹴って逃げようと身を捩った。だが、それを見計らったように後頭部の髪を鷲掴まれ、ベッドの上へと押し付けられた。 「うぅっ!……や、やめっ」 下腹部を撫でるように手を這わされ、カチャカチャ音を立ててベルトを引き抜かれる。 異様な恥ずかしさと混乱する頭で咲也は叫び声をあげた。 「や、やめろ!渉っ!!嫌だ!!!」 自分がしようとしている事を思いとどまって欲しくて叫んだとき、背中に嬉しそうな声が落ちてきた。 「渉って言ったな……。よかった」 「え?」 そっと首だけ振り返ると、いつもの優しい黒い瞳が自分を見下ろしていた。 「それでいい。今日は俺に抱かれてよ……。ゆう兄じゃない。咲也は俺に抱かれるんだ」 大きな体と逞しい腕で愛おしそうに自分を包み込んでくる渉に咲也は馴染みがあるその体に混乱した。 何が起こっているのか理解が出来なかった。 頭の中が真っ白になる。 自分が今まで誰に抱かれていたのかを思い知らされるこの体の熱と匂いに咲也は目の前を揺らした。

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