61 / 222
第61話
「お疲れ〜」
業務が終わり、神楽を筆頭に役員達が帰っていくなか、咲也も急いで帰り支度をしていたが渉に一歩及ばず声をかけられた。
「咲也、帰りいいか?」
断りたいが断る理由が特に無く、困っていたら明るく元気な声が間に入ってきた。
「ごめーん!咲也君、僕と約束あるんだ」
えへへっと無邪気に笑うのはなんと、咲也と一番角質のある綾人だった。
渉だけでなくその言葉に優一、猛、ざくろまでが目を見張る。
「なに?そんなに僕が咲也君と話したらまずいわけ?」
ムッと顔を顰めると、周りは無言でブンブン顔を横へと振った。
そして、相手が相手なだけあり、渉も我を通す事も出来ずに身を引く。
「綾ちゃんが先約なら……」
「ごめんね!ありがとう」
渉へ笑って告げると、帰り支度を済ませた綾人は咲也へ目配りした。
咲也は小さく頷くと、急いで綾人の後ろを走って付いて行った。
あまりにも不思議な光景に一同、ア然としたが二人が仲良くなるのならば嬉しいことに変わりはないと、黙って見送ることにした。
互いに無言で歩いていると、あっという間に寮へと着いてしまい、綾人は自分の部屋へと咲也を誘ってみた。
もちろん、答えはノー。だったのだが、肩を落として部屋へ戻ろうとした時、不遜な声に呼び止められる。
「お前の部屋は嫌だけど、仕方がないから俺の部屋に入れてやる」
超上から目線の可愛げない誘い文句ではあったが、咲也からの譲歩と思うと綾人は嬉しくてわーいと、バンザイしながら咲也の部屋へとお邪魔することにした。
「お邪魔しまーす!」
扉を開いて部屋へ入ると、そこは真っ白な空間だった。
汚れひとつない家具もベッドも雑貨品であるタオルなども全て白い物で揃えられている。
「……うわぁ〜。神経質そう」
ポツリと本音を漏らす綾人に咲也がカチンときて天使の頭をぱしんっと叩く。
「いて!」
「嫌なら帰れ。あと、絶対汚すな!」
フンッと鼻を鳴らし、勉強用の机に鞄を置くと咲也は冷蔵庫へ向かってペットボトルに入った未開封の炭酸水を手に持って帰ってきた。
「飲み物、これしかないんだけどいい?」
「ありがとう!」
まさか飲み物まで出して貰えるとは思ってなかった綾人は嬉しいと頷きながらペットボトルを受け取り、白いソファへと腰掛けた。
ともだちにシェアしよう!