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第64話
「仕方ないから許してやる!」
翌日、咲也は教室へ着くなり渉の前に踏ん反り返って告げた。
「……」
避けに避け続けられ、どうしたらいいかと悩んでいた所、咲也から近付いてきたと思えばやたらと偉そうに言い放つ幼馴染みの不遜な態度に渉は硬直した。
「なんとか言えよ!」
「え?……ああ。ありがとう」
じとりと睨みつけられ、いつも通り仲直りの時の鉄則を渉は忠実に行う。
渉からのその言葉に咲也はホッと胸を撫で下ろすと、ふわりと微笑んだ。
「これでもうお前と俺は前までと同じ関係に戻れるな!」
すこぶる嬉しそうに笑うその姿に渉は胸が騒ついた。
「……え…っ…」
「じゃあな!」
これで解決だ。と、ご機嫌に踵を返して席に着こうとする咲也の腕を渉は気が付けば掴んで引き止めていた。
「ん?」
首をかしげ、紅茶色の瞳が眼鏡越しに自分の姿を映すのを見た途端、快楽に涙を浮かべる情事時の咲也が目の前に広がった。
ドクンッと大きく心臓が波打って、今後咲也に触れられないと思うと頭の中が真っ白になる。
「……いらない」
「え?」
「許してなんて欲しくない!」
黒い瞳が咲也を見据え、渉ははっきりと今後の咲也との関わり方を告げた。
「もうお前とはただの幼馴染みに戻れない……。戻るつもりもない」
腕を離され、トンッと軽く胸を押された咲也は渉からの予想外の言葉の数々に頭の中が整理できず、足をフラつかせてはよろめく。
そのままおぼつかない足取りで自分の席に座ると、冷たいような熱いようなよく分からない視線を送ってきた渉に咲也は動揺した。
今後の自分達の関係性に不安が過ぎる。
自分から視線を外し、クラスメイトの友人達の元へと戻っていく渉に咲也は瞳を揺らして縋るようにその姿を追った。
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