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第65話
side 渉
「あーーーーっ!!!俺、何してんだよっ!!」
昼休み、渉は昼食も取らずに屋上へとやってきては空に向かって自分の行いに叫び声を上げていた。
咲也から元の関係に戻ろうと譲歩してきてくれたのに、変な胸のざわつきがそれを邪魔した。
このザワザワする感覚が何なのか渉自身、訳がわからない。
いや……
「……認めたくない」
自分が咲也に惹かれてるってことを……
気が付いているのに気が付いてないフリをして、出来ればこの想いから逃げたかった。
「ただの幼馴染みに戻りたい……」
フェンスに手を掛け、渉は誰もいないグランドを見つめて小声で呟く。
この呟きは心からの本音だ。
だけど……
「他の誰のものにものなって欲しくない」
これもまた、自分の本音。
今までなんだかんだと咲也には絶対的な想い人の優一がいた。
だから、この本音は見て見ぬ振りをしてこれた。
だけど、もうこの均衡を保つのは難しそうだ。
優一に綾人という「本命」が出来てしまったから……
「はぁ〜……。どうするかな…」
果てしなく遠い空を見上げ、渉はボヤいた。
選ぶ道は二択。
咲也の申し出を受けて元の幼馴染みに戻る。
もしくは……
「フラれて他人になる……」
肩をガッカリ落とし、盛大な溜息を漏らす渉は有力な未来予想図大きな溜息を漏らした。
咲也のタイプはあのゆう兄だ。
自分とは全く違った完璧な男。
とても理想に近づけない。
咲也に振り向いてなんて貰えないだろう。
せめて、たけ兄ぐらい俺もスキルがあればな……
幼い頃から有能な二人の兄と完璧な幼馴染みの兄を見てきた渉はある意味、劣等感の塊だった。
兄達に自分は劣っている。
いつもそう思って生きてきた。
それは真実だし、兄達を尊敬もしていたから別に苦痛ではなかった。
可愛がってもくれたし、自分が頼るとなんだかんだと助けてもくれて心強いことの方があったほどだ。
だが、そんな人達だからこそ思う……
「ゆう兄になんて勝てない……」
渉は咲也へ向ける想いにどう終止符を付けるか絶望に似た気持ちで瞳を伏せた。
side 渉 終わり
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