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第66話
モヤモヤする気持ちを抱え、咲也と変な距離が出来てしまった渉はこのままでは駄目だと知りつつもズルズルと険悪な関係を続けていた。
咲也自身、段々と変なプライドが出てきたのか渉の事を考えないようにと振る舞う姿勢が見て取れて、最近では切なさよりも虚しさが胸の内を締めた。
何となく今まで通り登下校や移動教室、放課後の生徒会室への行き帰りは共にしているが、二人は決して肩を並べて歩かない。
人一人分空けて、咲也が前を歩いてその後ろを渉が付いて歩いていた。
その間、もちろん二人は無言状態だ。
今日も放課後の生徒会業務を行うべく、二人は生徒会室へと向かった。
扉を開くとそこには渉と咲也の兄の猛と優一が互いを指差し怒鳴り声を上げて罵る姿に二人は硬直した。
「この馬鹿がいきなり殴ってきたんだよ!」
「こいつのアホ面が癇に障ったんだ!」
唇の端を切ったり、頬を腫らしたりと二人して顔にカットバンドを貼っては痛々しい姿にざくろが額を押さえて二人の仲裁に入っていた。
喧嘩の理由は分からないが、まだまだいがみ合いが続きそうは二人に渉がこれは厄介だなと、今までの経験上、嫌そうに顔を顰めた時、真後ろから呑気な声と愛らしい笑顔で綾人がやってきた。
「お待たせ〜。遅れてごめんね!先生に呼び出し…って、ゆーいち!?顔、どうしたの??」
優一の傷だらけの顔を見て綾人が叫ぶと、それを、見た咲也が兄の元へと駆け寄った。
「兄様!」
身を屈めて顔を両手で挟み、兄を心配する咲也は顔を歪める。
「大丈夫ですか?誰にこんな・・・」
青ざめながら顔と顔の距離を詰めていく咲也に綾人と渉がドタバタと近寄って二人の顔を引き離した。
「「近い、近い、ちかぁーーーーーいっ!!!」」
放っておいたらキスでもするんじゃないかという熱烈な距離感に二人が止めに入ると、咲也の瞳が細められた。
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