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第67話
「うるさいな!兄様が怪我してるんだぞ!?心配して何が悪いんだよ!」
拳を振り上げ、綾人と自分を振り払おうとした咲也に渉がその腕を掴んで嫌そうに言う。
「ゆう兄には、綾ちゃんがいるだろ?お前は引けよ」
「はぁ?なんで、そんなこと渉に言われなきゃ駄目なんだよ!だいたい、俺はこいつを認めてない!こいつが兄様とどうなろうが、俺は俺で兄様を想うって決めたんだ!」
「そんなこと言ったって、二人結婚しただろ?ゆう兄にフラれたくせに」
二人の関係を知り尽くした渉が責めるような言い方をすると、咲也はその事実に半狂乱に叫んだ。
「それでも、俺は兄様が好きなんだ!兄様だけが好きなんだ!!」
渉を睨みつけ、頑なに兄への愛を叫ぶ咲也に優一が綾人を抱き寄せる。
「そんなこと言われても、俺はもう身も心も綾に捧げた。お前は他をあたれ」
綾ちゃん好きだよ〜と、甘えるように綾人の腰に腕を巻きつけて胸やら腹やらにグリグリ頬擦りする無神経な優一に咲也の瞳が悲しそうに揺れた。
その揺れる瞳に気付いた渉は咲也から眼鏡を奪い、視界から優一と綾人が見えないように大きな掌で目の前を遮断した。
「優兄。こいつ、俺がもらうから」
いつも明るく爽やかで温かな雰囲気の渉の空気が、優一を射るように厳しいものへと一変する。
面と向かった渉の宣戦布告に優一は悠然と微笑み、楽しそうに口元を弧にした。
芯の強い事を知っている分、心底美しい男だと思った。
全てが完全無敵のこの恋敵に敵う要素は今の所自分には悲しいことに何一つない。
それは分かっている。
己の選択は二つ。
咲也の申し出を受けて元の幼馴染みに戻る。
もしくは……
フラれて他人になる。
そのどちらかしかないと思っていた。
が……
「咲也を必ず振り向かせてみせる」
優美には微笑む最大のライバルへ渉は情けなくも少し震える声で宣言すると、優一は紅茶色の瞳をほんの少し驚いたように見開いた。
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