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第68話

「この馬鹿!兄様に向かってなんてこと言うんだよっ」 生徒会室を渉に攫われるように連れ出された咲也はそのまま屋上へと連れていかれた。 恋愛感情込みの大好きな兄に意味不明な宣戦布告をした渉に顔を真っ赤にして怒りを表す。 「この際、ハッキリ言っておく!お前と関係を結んだのは、たまたまへこんでるときに隣にいたのがお前だったからだ!してる時だって、お前のことなんて微塵も思ってなかった!お前はお前で欲求解消してたんだからお互い様だろ?変に尾を引くなよ!お互い、後腐れないから結んだ関係だろ!」 歯に衣をつけない咲也の言葉に渉の意地が暴走する。 「最後に抱いた時は俺を感じただろうが!」 そこは履き違えるなと、強く責めてくる渉に咲也は額を押さえて息を吐き、反省した。 頼る相手を間違えた・・・ 「もう、お前に弱音は吐かない。誓うよ。だから……」 お互い忘れよう。と、咲也が呟くと一人屋上を降りて行った。 一人残された渉は地べたに座り込み、晴天の青空を見上げて盛大な溜息を溢した。 幼馴染みである咲也と体の関係を持ったことに渉も少なからず後悔している。 好きなのかと聞かれたら正直分からなかったからだ。 近過ぎた相手に手を出し、幼馴染みという大切なものを失いそうになる代償に胸が騒いでいるだけかもしれない。 そう思い込もうとしていた。 だけど、本当のところは分かっているのだ…… 好きだった 咲也に優一が恋愛感情で好きだとカミングアウトされた時から胸が痛かった。 そんな昔から自分は咲也に恋をしていたのだ。 咲也を初めて抱いた日、泣き崩れていつもの気の強さもなければ覇気もなかった姿を思い出す。 壊れた人形のようにひたすら涙を流すその姿は皮肉なことに美しくて・・・ 欲情した ずっと見て見ぬ振りをしてきた咲也の色香に当てられた。 優一一筋の姿を幼い時から隣で見てきた。 あちこちでプレイボーイの名を馳せる遊び人の優一に悩み苦しんでいた姿も見てきた。 中学を卒業し、高校へ入って兄と距離が縮まると喜ぶ姿と優一に本命が出来たと悲しむ姿も知っている。 本命を作った優一が悪いわけではない。 その本命の綾人が悪いわけでもない。 咲也の想いが悪いのかと聞かれたらそうとも言えず、ただどう足掻いても報われそうにない想いに同情した。 その同情がまだ恋と呼ぶには封印歴が長く淡すぎて、遊びというには熱くなりすぎた 自分の気持ちを誤魔化したまま咲也を抱いたことが失敗だったと渉は反省する。 最初から優一の代理などしなければ良かったのだ。 だけど、あの時はあれ以上、咲也の悲しい顔を見たくなかったのも事実。 「はぁーーーー。もう、ムカつくっ!」 とりあえず、自分はフラれたのだと渉は自覚する。 ただ、諦めることはしない。 これが恋と認めた以上、優一へ喧嘩を売った以上、何が何でも欲しいものを手に入れてみせる。 そう心に誓い、拳を握り締めた。

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