70 / 222
第70話
「あ!咲也君だ!」
昼休み、綾人が沢山の友人を従え学食へと現れた。
いつもは教室で食事をとるが渉がいて気まずいことから咲也は学食へと来ていた。
「一人?渉君は〜?」
呑気な声で周りをキョロキョロ見渡す綾人に周りの人間達は可愛いと目をハートにしては、天使にかなりのご執心っぷりを見せる。
「渉はいない」
兄というものがありながらこんな雑魚を何人も従えるなんてと、その姿に咲也はイライラする。
「ふ〜ん。…じゃあ、僕と食べよ?」
咲也の目の前の席に座り、メロンパンとクロワッサン、そしてカルピスを机の上へ置くと綾人は親衛隊にまた後でと人払いをした。
あきらかな綾人のワガママで自分勝手な行動だったが、周りは慣れた様子で綾人の指示に従う。
完全に綾人の取り巻きが消えると、咲夜はそれを見て呟いた。
「兄様がいるくせにあんな奴らも必要なのか?」
「え?」
首を傾げて目を瞬かせる天使に咲也はイライラする感情を抑える事が出来なくて怒鳴るように綾人を責めた。
「俺は兄様だけがいれば満足する!それなのに、お前は兄様だけじゃ飽き足らず他にも良い顔をしてるのかっ!!」
「他にもって、あれは友達…」
「友達?本当に?あんな下心満載な顔を見せるあいつらが?」
馬鹿にする様に吐き捨てると、咲也は席を立ち綾人を軽蔑する様に一瞥した。
「やっぱりお前に兄様は勿体無い。その他大勢に囲まれて満足するなら兄様から身を引け!穢らわしいビッチがっ!」
もう口もききたくないと、咲也はその場を離れ、この胸の中の怒りを発散する場所を求めて走り去った。
ひとしきり全速力で走りぬくと、気が付けば誰もいない屋上に咲也は来ていて、吹き抜ける風に冷たさを感じたが、走って温まった体にはちょうど良く感じた。
「……くそ」
ガシャンっとフェンスを拳で殴りつけ、咲也は溜息を吐き、先ほどの綾人とのやり取りを思い出す。
兄を想った言葉を言ったつもりだが、実のところはただの嫉妬心から溢れ出た八つ当たりだった。
大好きな兄を虜にし、周りから愛されて友人にも恵まれる綾人に嫉妬した。
今の自分は最愛の兄を奪われ、唯一の友人の幼馴染みをも失いそうで心が辛い。
誰もいない独りぼっちの自分
一人は別に嫌いではないけれど、決して好きなわけでもない
苦しい・・・
綾人が悪い奴ではないと分かってきている今、その苦しさがどんどん増していった。
やるせない、処理しきれない想いに押し潰されそうで、咲也はその気持ちを乗せるように少し曇る空へ溜息を溢した。
ともだちにシェアしよう!