71 / 222

第71話

「綾と何かあった?」 「……別に」 夕食を終え、咲也は父から電話を貰い、その伝言を伝えるために兄の部屋を訪れていた。 綾人がいたらとドキドキしたが、どうやら談話室にて友人達とゲームをしにいっているらしい。 お茶を出してくれた兄と世間話を楽しんでいたのだが、自分の挙動不審さが目立ったのか、ふと質問された。 「兄様は……、本当にあいつじゃないとダメなんですか?」 「そうだね。綾じゃないと無理だな〜」 弟の質問に小さく笑って答える優一は咲也へどうした?と、優しく聞いた。 「あいつ、兄様がいるのに他のやつを取り巻きにして……」 「あぁ〜。綾ちゃん、チヤホヤされるの好きだからね」 別段気にかける様子もない兄に咲也は目を丸くした。 「……もっと兄様はその…」 「束縛?するよ。だけど、最近キッツいお仕置きしたばかりだから今は少し自由にさせてるだけ。あんまり行動が目立ってきたら躾けるよ」 ふふっと笑ってコーヒーを飲む優一に咲也はソファの背もたれに深くもたれかかり、小さく息を吐いた。 「綾なら大丈夫だよ。すぐに機嫌を直すから」 「え?」 「お前はキツイことを言ってはこうして後で猛省するからな〜」 クスクス笑いながら綾人との喧嘩も全てお見通しの優一は咲也の頭を撫でた。 シュンと縮こまり、元気がない姿に優一は弟へ何度目かになるお願いをしてみる。 「ねぇ、咲也?綾と仲良くしてくれないか?」 「……」 「俺が守ってやれないときはお前が守ってやってほしい。俺の大事な子なんだよ」 頼むよと伝えてくる兄に咲也はそっと瞳を向けた。 「どうして、あいつなんですか?あいつの顔がそんなに好きですか?それなら俺、整形します!あんな風に話し方も変えるし、振舞います!だから・・・」 言葉を紡ぐ度に兄の整った顔が悲しそうに微笑んでいく様に咲也は口を閉ざした。 「お前がどれだけ姿を変えても俺は恋愛感情は持てない。逆に綾人が姿を変えても一生愛してる。あの容姿もだけど、俺があいつを好きなのはそれだけじゃないよ。流石の俺もそこまで馬鹿じゃない」 笑って茶化す兄に咲也は深追いしてみる。 「あいつの何が一番好きなんですか?」 至極シンプルな質問に優一は難しいなと笑った。 ただ、自分のなかの決め手は好きという感情だけではなかった。 守ってやりたいと思った 自分の持てる全てで盾になり剣になり、彼の運命そのものを守り抜きたいと願った 己の身を一番に考え、守られることが必須と教え込まれて育った優一がその概念を崩すほどのモノを与えたのが綾人だった。 「俺の運命の子なんだ。この身を捧げてでも守ると決めた。きっとお前にもそう思える子が現れるよ」 その運命の相手は俺ではないと弟の頭から手を離しながら伝えると、咲也は傷付いた顔を兄から逸らした。 もう兄へ何を言っても綾人へ向けられた気持ちを変えることは不可能だと吐息を漏らした時、離れていった兄の手が額へ触れてくる。 「お前、熱っぽくないか?」 「……そうですか?」 咲也は言われて自分の体が重だるいのを感じた。昼間、屋上にて汗をかいたあとに浴びた冷たい風が原因かもしれない。 「兄様に移すと大変なので帰ります」 風邪気味かもしれないと自覚した咲也は律儀に兄へ頭を下げた後、急いで部屋を出ていった。

ともだちにシェアしよう!