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第74話
「咲也!咲也!?」
拳で扉を叩いて渉が名前を呼び続けると、ゆっくりと戸が開き白いシルクのパジャマに着替えた咲也が姿を見せた。
「うるさいな。何?」
寝ようとしていたのか、鬱陶しそうな声を出されたが、思っていた以上に元気な姿に安堵する。
「風邪引いたってゆう兄から聞いたから…」
「少し熱っぽいだけだよ」
気のない声で返答し、咲也は部屋の中へと入って行く。
帰るべきか中へ一緒に入っていいのか分からなくて躊躇していたら、振り返った咲也の紅茶色の瞳が細められた。
「なに?入るなら入れよ!帰るなら帰れ!」
ぶっきらぼうに言い放たれたが、側に居させてもらえると分かるや、渉は嬉しそうに顔を綻ばせて部屋の中へと入った。
相変わらず整理整頓された綺麗な部屋に感心する。
「なんか飲む?って言っても炭酸水しかないけど」
冷蔵庫から炭酸水の入った新しいペットボトルをテーブルの上へと置かれ、渉はありがとうとソファへ座り、それを手に取った。
「……熱はあるの?」
「ん。微熱。寝たらすぐ下がる」
そういう咲也が気怠げにソファへ腰掛ける。
熱のせいか妙な色気が漂って、渉のなかの何かが刺激を受けた。
「……ゆう兄の部屋に行ってたんだって?」
「ああ」
「……」
険を含んだ渉の問いに頷いたあと、口を閉ざしては明らかに嫌そうな表情を浮かべる幼馴染みに咲也はイライラしてきた。
「なんだよっ!言いたいことがあるなら言えよっ」
キツイ口調で言うと、少し俯いていた顔を上げた渉が息を吸う。
「じゃあ、聞くけど!ゆう兄の部屋へ何しに行ったんだよ?まだゆう兄のこと、諦めないの?あれだけハッキリ振られてるくせに綾ちゃんとの間、邪魔すんのかよ!?」
「そんなの……、別に渉に関係ないだろ?答える義務もなければ、お前に忠告される義理もない!」
「俺と寝たくせに!」
「たった3回寝ただけで自惚れるな!これからは違う奴とお前以上の回数重ねるよっ!!」
二人は互いの言葉にムキになり、最終咲也が売り言葉に買い言葉的な発言を唱えてしまった。
それに対して、渉の中の怒りの導火線に火が灯る。
「お前のこと、好きだって言ってんだろ!なんで、そんなこと言えるわけ?信じらんねー」
ギリリと奥歯を噛み締めて眉間に皺を寄せ、ソファから立ち上がると咲也は一瞬怯んだが、ゴクリと喉を鳴らし、気丈に渉を睨みつけた。
「俺が好きなのは兄様だ。お前のこと、そんな目で見れないし今後も見る気はない。体の相性がちょっと良かったからって盛んなよ」
馬鹿にするように鼻で笑ってあしらうと、渉は怒りを押し隠すように咲也を見下して嗤った。
「盛ってんのはお前だろ?気持ちいいってぶっ飛んで何回イッたんだよ?」
「それはお前が」
「そんなに兄様が好きなら反応すんなよ。この淫乱!」
「なっ!」
畳み掛けるように言い返してくる渉に咲也はカッとなって拳を振り上げた。
が、その拳を渉は強い力で掴んで捻り上げる。
「違うなら違うで証明してみせろよ。咲也がゆう兄にしか反応しないって確認してやるよ」
妖艶な笑みで一歩を踏み込み、ソファの上へと押し倒される。
「ちょっ、やめっ……」
「なに?ビビってんの?」
細い腰に馬乗りになって、咲也を見下ろし嘲笑うように渉が挑発する。
そんな初めての顔を見せる幼馴染みに咲也は恐怖で体を強張らせた。
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