80 / 222
第80話
「む、無理だ!」
痛む腰をなんとか持ち上げて咲也は昼休み、渉から逃げる様に教室を飛び出した。
朝、目覚めると同時に再び襲いかかられ、必死に抵抗したにも関わらず体を開かされては3回も情事に更けてしまった。
学校を休もうかとも思ったが、昨夜の自分の体調を気に掛けてくれた兄から珍しくも電話がかかってきて、その麗しの声音に心配かけまいと、登校することを告げてしまった。
その兄からの電話に喜ぶ自分の姿が渉に苛立ちを感じさせたのか、登校する時から昼休みに入る今の今まで甘い雰囲気とどこか妖艶な空気感で迫られ、頭を悩ませることとなっている。
渉の隙をついて教室を飛び出したものの、悲しきことに友人もいなければ行く当てもなく、右往左往していたら甲高くもどことなく耳障りの良い怒鳴り声が聞こえた。
「嫌い!嫌い!!きらぁぁあぁいぃぃーーーーっ!!!」
「嫌いで結構。今夜覚えておくように」
顔を真っ赤にして体操服のジャージ姿の綾人が半泣き状態で兄の優一と口論していた。
キャンキャン吠えるポメラニアンのような綾人に対し、無表情で適当にあしらう兄を見て、基本笑顔で全てを難なく躱してしまう適当な一面を知っている咲也は優一が相当キレていることを察する。
「ゆーいちなんて嫌い!顔も見たくない!今日から自分の部屋に帰るっ!!」
「……」
目立つ二人に加え、この騒動。
周りの視線が強烈なほど突き刺るなか、優一は綾人の言葉を右から左へと受け流そうとする。
「ばか、ばか、ばかぁぁあーー!もう、浮気するっ!!」
微動だにしない優一が気に食わないのか綾人が怒声と罵倒を轟かせた瞬間、嫉妬深い兄にとっての禁句を口にした。
無表情、無反応を貫いていた優一もその一言にブチりとキレて、綾人の胸倉を掴み上げた。
「あぁ?」
王子様と名高い笑顔はどこへやら、睨みつけては凄む元ヤンの昔の顔を覗かせる兄に咲也は青ざめては駆け寄った。
「に、兄様っ!!」
咲也の登場に優一がほんの少し冷静さを取り戻し、綾人の胸倉を掴んでいた手を緩めた。その瞬間、自分を掴んでいた手を払って綾人は咲也の手を握り締め、脱兎の如く廊下を走り抜けた。
「え?……えぇぇぇぇーーーー!!?」
突然のこと過ぎて何が何だか分からない咲也は引き摺られるように綾人へ連れ去られていった。
ともだちにシェアしよう!