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第81話

「ゆーいち、酷い!すっごく横暴だし、すっごく頑固だし、僕のこと奴隷って思ってる!!僕の人権どこいったの!?」 机をバンバン叩きながら涙を浮かべて必死に訴えてくる綾人に咲也は目を瞬かせた。 どうやら兄の王様的な部分が炸裂したようだ。 門倉家では両親は勿論、祖父母に親戚、世間の目からと期待をされてはそれを卒なくこなしてしまう兄はいつも完全無敵の王様だ。 人に命令するのは当たり前。人を動かせるのも当たり前。とにかく人に媚びず、己の道を好きなように歩み進める兄なのだ。 障害物が現れたり、歯向かう者には容赦なくぶっ壊しては切り捨ててきた人なので、自分の知る限り綾人はかなり厄介な相手だと咲也は思った。 天真爛漫な性格は良い意味でも悪い意味でも読むことが出来ず、自由奔放で無知なようで無邪気な綾人は己の気持ちに正直な子供のような人物だった。 人と一線引いては好き嫌いが激しいくせに、誰にでも良い顔をして好かれようとする。 兄と微妙に似ているようで似ていない良く分からない性格だと思った。 そんな相手を兄も生まれて初めて媚びては気に入られようと必死なのだろう。 人の機嫌を取って、他人に厳しい人物なのにこれでもかと甘やかせては手中に収めようと躍起になる姿にかなり目を疑った。 ついさっきの出来事でもそうだ。 いつもの兄なら笑顔で上手に躱してなんなく事を収めるだろう。それを無表情で不機嫌な姿を多勢に晒し、最後には滅多と見せないブラックな一面を披露する始末。 ここまで兄に強烈な影響力を与える綾人がムカつく反面、酷く羨ましかった。 「……で?俺に愚痴ってどうすんだよ?」 「どうするって……」 戸惑う蜂蜜色の瞳と目が合い、優れた容姿に不覚にも咲也の心臓が速まった。 天使と名高い純真無垢な容姿を持つ綾人はほんの少し視線を宙へ彷徨わせたあと、いい事を思い付いたと満面の笑顔で両手をパンっと叩いて信じられない言葉を放った。 「今日、咲也君の部屋に泊めて?」

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