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第82話

「ふざけんな!帰れ!!」 「やーだぁー!」 「自分の部屋があるだろ!?」 「だって、ゆーいちが来るもん!」 「だったら、あのざくろとかっていう友達んとこ行け!」 「九流先輩がゆーいちに僕のこと横流しにするから無理!」 突拍子もないことを言い出した綾人は逃げ惑う咲也の後を追ってお願い、お願いと縋り付いた。 一年の教室まで引っ付いて来るや、騒がしい二人に渉が姿を見せる。 「綾ちゃん?」 「あ!渉君!」 にぱっと、人懐こい笑顔を見せる天使に渉と咲也以外の一年生が釘付けになる。 渉も可愛いねと微笑んだあと、隣に立つ咲也とのツーショットに目を丸くした。 「咲也と一緒なんて珍しいね」 「そう?最近、仲良しだよ!今はちょっとお願いしてて」 「お願い?」 咲也に懐く様子の天使に首を傾げて近付く渉の視線は綾人ではなく咲也を捉えていた。 はたから見れば分からないだろうが長年、側にいれば微妙な違いが分かる。 昼休み、自分の隣を離れたことに渉はえらく機嫌が悪そうで、只今微妙な関係性の咲也はそんな幼馴染みに心なし怯えを感じていた。 「どんなお願い?咲也じゃなきゃダメなの?」 「うん。咲也君の部屋にお泊まりしたいってお願いしてるの!」 「お泊まり!?咲也の部屋に!!?」 予想外の返答に渉は素っ頓狂な声を上げた。 「それはちょっと……」 無理なんじゃ…と、苦笑いしてはさり気無く自分の手へ触れてくる渉に咲也はびくんっと体を跳ねさせた。 断れと安易に命令されたようで、咲也のプライドが刺激される。 自分に命じられるのは兄だけだ。 それ以外の人間のいうことなんて聞く気はない。 そう思うと渉に対して苛立ちが生まれてきた。 それに、ここで綾人を断れば、今夜も渉は部屋へ訪れては自分の体を好き勝手に弄ぶかもしれない。 苛立ちと同時に起こる恐怖に咲也は渉から一歩距離を取って綾人に言い放った。 「分かった!一晩泊めてやる!!」 「え!?」 「本当!!?」 驚く渉と喜ぶ綾人。 咄嗟に放った答えに本当にこれで良かったのかと固まる。 渉と綾人。この二人を前に気まずい空気が流れて、咲也はダラダラと冷や汗をひたすら流した。

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