83 / 222

第83話

「ベッドは使わせないからな!このソファで寝ろよ!」 「うん!ありがとう」 消毒液の匂いがする部屋へ入るや、綾人は嬉しそうに真っ白なソファへとダイブした。 持ってきた小型のゲーム機と売店で買ってきた飲み物やお菓子をテーブルの上へばら撒く。 「こら!散らかすな!」 部屋を汚されるのが嫌な咲也は綾人を制すると、一緒に来ていた渉が機嫌悪そうに呟いた。 「綾ちゃんが泊まるなら俺も泊めてよ」 「はぁ?なんで、お前まで…」 渉を避ける為に綾人を泊まるのにまさかの対象人物も一緒なことが嫌で咲也が言葉を濁らせる。 「いいじゃん!渉君も泊まってくれるなら一緒にゆーいちの悪口言おう!」 拳を握りしめて目を輝かせる綾人に咲也が明らかな不満そうな表情を見せた。 「兄様に悪いとかなんてないっ!」 「あるよ!俺様でドSの変態で頑固者だ!」 「違う!統率者で個性溢れる芯を持つ人なんだ!」 「はぁ〜!?ありえないぃ〜!!あんなに自分勝手なのに?周りからなんて言われてるか知ってんの?悪魔通り越して大魔王だよ!青い血が流れてるって言われてんだからっ!」 「失礼だなっ!ちゃんと兄様からは赤い血が流れてるってっ……」 綾人と言い合いをしていたら、ドンドンドンっと大きな音を立てて部屋が叩かれた。 その音の激しさに咲也が言葉を途切らせると、扉が無遠慮にも開かれた。 「兄様!!」 姿を見せたのはまさしく今、話題に上がっていた兄で、咲也は驚く。対する綾人はチラリと視線を送るだけで嫌そうな溜息を漏らした。 「あ〜や〜!」 放課後からずっと何処を探しても姿が見当たらなかった綾人をあの手この手の情報網で優一は咲也の部屋へと辿り着いた。 稀に見せない怒りの表情の優一に咲也と渉が硬直するなか、綾人だけがしれっとテレビをつけて欠伸をする。 「綾ちゃん、謝ったほうがいいよ」 「俺もそう思う。早く兄様に……」 二人が綾人へ進言すると、綾人は渉と咲也を睨みつけて言い返した。 「どうして僕が謝んなきゃダメなわけ!?ゆーいちが悪いもん!僕は悪くな……」 「俺が悪かった」 怒り心頭の綾人の言葉を遮るようにまさかの優一が先に謝罪をした。 それに目を見開く咲也と渉に綾人は口を結ぶ。 「カッとなって酷いこと言ったのは謝るよ。だから……」 「本当に悪いと思ってるなら今日は帰って!僕、今夜はここに泊まるから」 ソファ備え付けのクッションを胸に抱えた綾人がプイッと顔を背けて素っ気なく告げると優一は小さく溜息を漏らした。 「……分かった。それなら俺も今日はここに泊まる」 いいだろ?と、綾人の隣に腰掛けて弟へと目配りするとすかさず渉が右手を上げた。 「俺もっ!絶対泊まる!!」 優一が泊まるなら絶対に帰らないと主張する渉に咲也は頭痛を覚えた。 愛して止まない兄とその兄を奪った恋敵の綾人。そして、微妙な関係性を築きつつある幼馴染みの渉。 この三人がこの部屋に泊まるなんてと額を掌で押さえ、混乱する頭の中をなんとか整理しようと心がけた。

ともだちにシェアしよう!