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第84話

「狭い!ゆーいち帰って!!」 「シングルサイズなんだから仕方ないだろ?」 ソファの背もたれを倒してソファベットにした優一が綾人を抱きしめて横になり、綾人はその窮屈さに喚いた。 そのラブラブさに当てられるようにダブルベッドの一番端と端に背中を向けあって眠る咲也と渉は艶かしいような気まずい雰囲気に硬直していた。 兄と一緒に寝たいと主張してはみたが、 そうなると必然的に渉と綾人がソファベットで寝ることとなり、優一が烈火のごとく怒って阻止してきた。 また、その台詞に渉も目に見える程の不機嫌さを醸し出し、咲也はそれ以上何も言えなくて今の状況に甘んじた。 「咲也、電気消すぞ?」 「あ、はい!」 優一が電気のリモコンを手に取り、パチリと豆電球のみつけて部屋の明かりを消す。 静まり返る室内に変な緊張感を感じてしまい、身じろぐことも叶わなくてソッと息をひそめた。 体を合わせた幼馴染みが隣にいて、大好きな兄が近くにいる。 そして、身を焦がすほど憎らしかった恋敵。 この信じ難い状況下に咲也は頭の中を混乱させていた。 どれくらいの時間が経ったのか分からないが、眠気は一向に起こらず、寝付けなくて壁に掛かる時計へ視線を巡らせる。 うすら明かりの中、時刻を確認すると0時を回ろうとしていて何処と無く息を吐いた。 いつもなら、とうに眠りについている時間だ。 周りは相変わらず静かだし、眠りについたのだろうと寝返りを打とうとした瞬間、兄を制する綾人のかなり小さな声が聞こえた。 「……っ、や、やめてったらっ!ゆーいち…」

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