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第86話
side 渉
「……っ、ぅ…」
静まる空間で必死に抑えようとする喘ぎ声に渉は寝付くことが出来なかった意識の中、ベッドの中でパニックを起こしていた。
おいおいおいおい……
マジか!?
勘弁してくれと焦っていたら、背中越しに自分と同じ様に狼狽える気配を感じた。
それで、咲也も起きていることを知る。
ソファベッドの二人だけが気付いてないようで、この異様な展開に渉は額を押さえた。
綾人の乱れる吐息が艶かしくて否応なしにこっちも気持ちを煽られた。
更に、直ぐそばには想いを寄せる咲也がいるのだ。
それと、もう一つ。
兄の濡場をこんな間近で見て、咲也がショックを受けないかが心配でもあった。
ゆう兄……、ちょっとは自粛してよ
もうすぐ卒業が近づいていることもあり、はたから見ていても優一には余裕がない。
綾人が他の男と話をしている事にも気が食わないのか、やたら嫉妬心を見せていた。
その光景に咲也だけでなく兄の猛も驚いていたが、一番迷惑そうなのは当の本人である綾人だろう。
冬が来て、年が時期に明ける。
そうなると数ヶ月で兄達はこの学園を去り、大学生となる。
寂しい気持ちもあるが内心、早く優一にはこの学園を去ってほしい気持ちの方が大きかった。
咲也の側を離れて欲しい。
その時期がきたときこそが、俺の勝負時になるのだから
そんな深く暗い思惑を考えていたら、ソファ側の物音が激しくなり、綾人の耐えるようや悲鳴が聞こえた。
「綾、愛してる……」
優一の熱の篭る告白に咲也が強張るのを感じた。
本格的にマズさを感じた渉は枕元に置いていた携帯電話をベッドから故意に落とす。
ー ガタンッ ー
その音に全員に緊張感が走る。
それを難なく寝ぼけた演技で渉は躱そうと試みた。
「あ、ごめん!」
シンプルな謝罪に慌てるような声と布が擦り合う音が聞こえてきた。
綾人が急いで服でも着込んでいるのだろう。
「やっぱり、ベッド狭いから自分の部屋に戻るわ」
優一の珍しくも焦りを含む声色に渉は是非ともそうしてくれと安堵の息を吐いて、布団をかぶり直した。
side 渉 終わり
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