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第87話
優一と綾人が完全にいなくなって、渉は盛大な溜息を零した。
その音に隣で寝ていた咲也がこちらを振り返り、赤い顔で見つめてきた。
「……ありがとう」
小声で囁かれたお礼は何処と無く震えていて、やっぱり兄の情事を目の当たりにしてショックを受けたのだと渉は思った。
「大丈夫?」
「え?何が?」
「いや、ゆう兄のこと……」
口籠もって言うと、咲也が少し驚いた顔をした。そして、直ぐに顔を逸らせた。
一瞬、訳が分からなかったがその咲也からの反応で推測出来ることが一つあり、渉は踏み込んで聞いてみる。
「もしかして、そんなにショック受けてない……?」
その問いに咲也の身が強張るのが暗闇で見てとれて、渉は驚きと喜びに駆られた。
「マジで!?」
大きな声を上げて身を近づけ、肩を掴んで振り向かせると咲也の赤面しては困惑する顔とぶつかった。
「本当にもう、ゆう兄のこと吹っ切れた?」
「ふ、吹っ切れてなんてないっ!兄様のことは大好きだっ!!」
意地のように声を張り上げては抗議してくる咲也に頬が緩む。
その緩んだ顔がムカつくのか、咲也は拳を振り上げて渉の顔面目掛けて振り下ろした。
が、その手を難なく躱されて抱き締められる。
「おいっ!コラ!離せっ!!」
「やばい!やばい!やばいっ!!可愛すぎて抱きたい!咲也、抱かせて!」
「はぁーーー!?アホかっ!寝言は寝てから言えっ!!嫌に決まってんだろ!!」
抱きついてくる渉の頭をボカボカ殴りながら、体を引き剥がそうとする咲也に渉がニヤニヤ笑って咲也の両手を封じるように押さえつけた。
「マジでヤバい。俺、本当に咲也のこと好きみたい……」
にひひと幸せそうに笑っては首筋に顔を埋めてくる渉に咲也は羞恥に身を震わせた。
「咲也……、ゆう兄や綾ちゃんよりエロいことしよ?」
耳の中へ舌をぬるりと滑り込ませて、低い声で囁かれた咲也は腰にぞくりと電流を走らせ、声を上げた。
「んんっぁ…!」
「もしかして、咲也って耳弱い?」
嬉しい発見だと笑う渉に咲也は紅茶色の瞳で睨みつけた。
その気の強そうな瞳が潤んでいることに本人は気付いていないのだろう。何の迫力も発揮しないそれがまた一段と可愛くて、渉は微笑むと咲也の弱点である耳へ唇を寄せた。
「いっぱいエロい声、聞かせてよ……」
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