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第91話

「にいさまぁあアアァァアーーー!!!」 滝のように涙を流し、兄の優一へ抱き着いては大声で泣き伏せるのはクールビューティーと名高いあの咲也だった。 別れと出会いの春の象徴である桜の花びらが晴天の今日、立春高校の卒業式に暖かな風で舞う。 「兄様!兄様っ!兄様ぁぁあぁーーー!!卒業しないでぇぇえーーー」 ギャンギャン泣いては取り乱す咲也に優一を含む周りの人間がドン引きしていた。 猛と優一は無事に目指していた大学へ進学する事が決まっている。 卒業で別れが辛いが新たな門出の始まりでもある二人にハンカチ片手に泣き喚く者がもう一名。 「卒業、おめでとうございますぅぅーーー、ぅあぁわ〜〜ん!!」 涙でハンカチを濡らし、わんわん泣くのは猛の恋人兼嫁の西條 ざくろ、もとい、九流 ざくろだった。 旦那の猛が卒業してしまう現実に悲壮感が押さえられず、前の晩からずっと泣き続けているらしい。 おかげでモデルという職業のくせに目が無様にも腫れ上がっていた。 そんな二人に挟まれて立つのは同じく在校生の綾人だ。 至って感情を表に出す事なく、真顔で立っては左右で泣く親友と義弟の頭を撫でていた。 「白木、すげぇ冷静だな」 「綾ちゃんもこいつらぐらい別れを惜しんでくれていいんだよ?」 咲也とざくろの強烈な別れの惜しみ方に内心、引き気味の猛と優一は苦笑いしながら言うと、綾人は人差し指でポリポリ頬を掻きながら答えた。 「いや、僕も一応寂しいんですけど二人があんまり凄いから気圧されちゃって…」 確かに、何処の場所でもこれほど激しく泣く二人に敵うものはいなくて二人は失笑する。 「兄様!毎日電話しますね」 「いらない」 「嫌だ!絶対電話するっ!!」 眼鏡を外して、泣き叫ぶ咲也に優一はこめかみを押さえる。その時、咲也は再度兄にしがみついてど変態なお願いをし始めた。 「お願いします!兄様のこの制服、俺に下さい!!パンツも全部!っていうか、毎週俺に兄様が使用したパンツ送ってくれませんか!?」 「送るわけねーだろ!この、ど変態の馬鹿っ!!」 気持ち悪いんだよと、弟を押し退ける優一が少し離れた場所にいた渉へ視線を向けた。 憎々しげに自分を睨みつけてくる九流家三男、渉から怖いぐらいの嫉妬心がだだ漏れでどうしたものかと硬直する。 「おい。渉が見てるぞ」 離れようとしない弟の耳元へボソリと呟くと、ビクリと体を跳ねさせ今度は咲也が硬直した。

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