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第94話

「遊んでないで、離れろよ!今日の業務がないなら俺は帰る」 渉を退け、逃げようとした時、腰を引き寄せ抱き寄せられた。 強い力に狼狽えてしまい、抵抗する力を弱めてしまった咲也は足払いをされてその場に組み敷かれた。 「なっ!お前!!マジで……」 こんな場所で本気で事に及ぼうとしているのかと、声を荒げる咲也に渉の笑みがセクシャルに歪んだ。 「鍵、掛けてないからスリリングだな」 言われて、咲也は扉へ視線を向ける。 渉が言うように本当に鍵が掛かってなくてサーっと血の気が引くのを感じた。 これは是が非でもこの状況下から逃げ出さねばと身を翻した時、グッと体重をかけられて咲也は惜しくも動きを封じられてしまった。 「わ、渉!止めろってば!!」 青いのか赤いのかよく分からない顔色で必死に拒む咲也のうなじへ唇を渉は寄せた。 「好きだよ」 毎日、欠かさず告げている告白を渉は今日も囁く。 その愛の言葉に咲也の体は強張っていき、動きを鈍くする。 「咲也…、俺のこと好きになってきた?」 少し不安げな声が鼓膜を震わせる。 強く体を抱きしめられて、縋るような吐息に抵抗が出来なくなってしまった。 兄の優一がこの学園を去って早、3ヶ月。 寂しくて悲しくて毎日泣いては塞いでいたが、その弱みに付け込むように毎日、渉は咲也の元を通っては愛の告白を続けていた。 今ではその情にほだされてしまい、咲也自身何が何だか分からない状態に陥る始末だ。 そんな不安定な心を落ち着かせたくて兄を求めて休みの日に会いに行くと、決まって綾人がいた。 綾人自身、嫌そうではあるが、優一自身は週末の逢瀬が待ち遠しいらしく、ひたすら綾人を猫可愛がりしていた。 そんな二人のピンクのオーラに当てられるとうんざりする気持ちが沸き起こり、一人虚しく寮へ戻ってきては渉に好き放題慰められるのがパターン化している。

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