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第95話

「咲也、顔見せて?」 地面へ俯く顔を顎を撫でて、無理なく振り返させられると優しく唇を奪われた。 そのまま手早くネクタイが解かれ、キッチリと着込んだブラウスの第1ボタンと第2ボタンが外される。 服を脱がされていくこの瞬間が一番恥ずかしい咲也は顔を赤くして、キスに没頭するかのように積極的に舌を絡めた。 殴ってでも逃げなければいけないのに、もう心と身体が絆されていて、こんな雰囲気を作られると抵抗を失うほど飼い慣らされてしまっているそんな自分を信じたくなくて咲也は閉じていた瞳を薄っすら開いた。 その瞬間…… 「優一に似た顔が喘ぐのも新鮮なんもんだな〜」 渉越しにいつの間にか部屋へと入室しては自分達を腕を組んで観察し、感心する男が声を発して咲也は驚きに目を見開き、悲鳴をあげた。 「ギィヤァァアァアアーーーーーー!!!」 キーンっと脳天を貫く程の日頃のクールな彼からは想像も付かない悲鳴にその男が今度は驚く。 「な、な、な、な………」 自分の悲鳴をモロに鼓膜へ食らい、耳を塞いで悶絶する渉を咲也は自分の上から退かせ、はだけた胸元を隠すように両手で掻き合わせた。 「優一と容姿が似てるのがいいな。あいつ、バリタチだからこんな可愛い姿拝むなんてありえねーだろうし。ククッ……、マジ可愛い」 焦っては乱れる咲也を兄の優一に重ねて男は声を上げて笑う。 その男を咲也は紅茶色の瞳で睨み返した。 「兄様に邪な感情を抱くのやめてもらえます!?っていうか、どうして二宮さんがいるんですか!?」 内心はどうあれ、外面だけでもいつもの自分を取り繕い、咲也はその男の名を口にした。 二宮 神楽。 3ヶ月前に兄達と一緒に卒業した前体育委員長で生徒会メンバーだった男だ。 兄とはプライベートでも仲が良くて一緒にいる姿を度々目にしていた。 なので、咲也もこの男を知っている。 綾人曰く、兄と同じ性癖の持ち主でド変態だとか…… ジトリと、自分を睨みつけてくる咲也に神楽はニッコリ笑って自分が何故ここにいるのか、理由を告げた。 「家督だよ。俺の家は学校経営なんだ。だから、こうしてあちこちの学校を転々として良いとこと悪い所を学んでいっている。大学に入ればこういう行動が義務付けられててね。まずは手始めに母校からって思ったんだけど、まさか懐かしの生徒会室で友人の弟達がこんないかがわしいことしてるなんて……」 最後の方はニヤニヤしながら自分を見下ろしてくる神楽に咲也は何も言い返せず、長い睫毛を伏せた。

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