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第97話

渉に騙されたことと、神楽に嫌な現場を見られたこと、そして卑猥なプレゼントに咲也は頭の中を怒りやら恥ずかしさやらで混乱に満ちたまま寮へと戻った。 「あ!咲也君!」 2年の談話室へ差し掛かったとき、綾人が一年生と二年生の下級生達に群がられていた。 いつみても愛想の良い天使に咲也は息を呑む。 自分が知る限り会うと揉めてはいるようだが、兄との関係は何だかんだと上手くいっているのだろう。落ち着きも出てきて綾人は出会った時よりかなり穏やかになっていた。 最近では三年生の貫禄も付いたように感じる。 「……こんな場所で何してるんだよ」 いつも人気者の綾人にイラっとして八つ当たりをしてみたが、返ってくるのはいつも通りの可愛い笑顔だ。 「ゆーいちが美味しいお菓子を送ってきてくれたから一緒に食べない?」 「食べない」 兄が送ってきたお菓子には興味を惹かれたが、自分にではなく綾人にっていうのが気にくわないのと、今は色々ショックなこともあって一人になりたかった。 「そう……。じゃあ、ざくろと渉君と食べよ」 残念。と、呟く綾人は自分を囲んでいた下級生達にバイバイと手を振る。 去っていこうとする綾人に咲也は渉の名前が出たことに変に意識が高まり呼び止めてしまった。 「ま、待った!」 「何?食べたくなった?」 振り返って小首を傾げてくる綾人に咲也は赤面した。 先程の卑猥な大人のおもちゃが頭の中を過ったのだ。 あの兄が相手ならばもう、あの手のおもちゃは経験済みであろう目の前の天使のギャップに絶句した。 それに加えて、いつしか部屋へ兄と泊まりに来た時、二人の情事を目の当たりにしてしまった時の事も蘇ってきて、綾人を直視できなくなったしまう。 「咲也君?顔、赤いけど大丈夫?風邪?」 訝しむ表情で近付き、顔を覗き込まれて咲也はボンっと赤い顔をさらに赤くした。

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